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戦国異伝

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第八十四話 炎天下その四


「戦になる」
「ううむ、この暑い中で川の水を飲めぬのですか」
「それはまた辛いですな」
「それもかなり」
「しかしじゃ」
 だがそれでもだとだ。佐久間は前田達に言う。
「勝たねばならん」
「ですな。その為に来ているのですから」
「この近江に再び」
「この戦で六角を倒し」
 そしてだった。
「そのうえで近江の南を安泰にしてじゃ」
「伊賀もですな」
「あの国も手に入れますな」
「うむ、そうする」
 まさにそうすると答える佐久間だった。前田達に対してだ。
「さすれば我等は後顧の憂いがなくなる」
「そうですな。だからこそですな」
「我等もこうしてここに来た」
「あえて」
「この顔触れを見るのじゃ」
 佐久間は今度はこう彼等に告げた。
「誰もが織田家の中で武を誇る者じゃ」
「武辺者を集めてですか」
「そのうえで六角を倒す」
「その為にこうしてわれ等武辺者を集め」
「そうして戦う」
「殿はそこまでお考えだったのですか」
「殿の人を見る目は確かじゃ」
 佐久間は言い切った。信長のその人を見る目のよさを。
 そしてそのうえでだ。こうも言ったのである。
「だからこそじゃ」
「我等はその殿の目に応えてですか」
「六角を蹴散らし伊賀も手に入れる」
「そうすることですな」
 前田達は佐久間と話していくうちに戦を期待する笑みになった。それはまさに餌を前にしている獣だ。誇り高い獣の顔で言うのだった。
「では、です」
「この一万の兵で野洲川まで向かい」
「そのうえで」
「そうじゃ。勝つ」
 佐久間は言った。ここでも。
 そして柴田もだ。こう彼等に言ってきた。
「まずは城に入るぞ」
「そしてそこを足掛かりにしてですな」
「野州川での戦に赴きますか」
「そのうえで」
「そこには水もある」
 柴田はこうも言ったのだった。水の話をしたのだ。
「そこで喉を潤すぞ」
「はい、そうしなければ本当に」
「このままでは死にまする」
「生きてはいられません」
「それはとても」
 こう話してだった。前田達はだ。
 彼等は勢いを取り戻して野洲川に向かった。そしてその野洲川の近くにある。長光寺城に入った。そこはまさに川が近くにありそこを守る城だった。
 柴田達織田家の武辺者達と一万の兵が入ったのは夕刻だった。しかしだ。
 まだ暑い。だがそれでも城の中に入れば水がある。それでだった。
 彼等は期待に胸を躍らせて城に入った。しかし。
 その水が蓄えられた水瓶達を見てだ。彼等は大いに落胆して言い合った。
「少ないのう」
「これだけしかないのか?」
「小さき城じゃから外にも布陣しておるが」
「だがそれでもじゃ」
「水はこれだけか」
「これでは皆が一度たらふく飲めばじゃ」
 どうなるかとだ。彼等は夕刻の赤い城の中で口々に言う。 
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