戦国異伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第八十三話 明智の覚悟その十二
「何かあれば敦盛を舞われます」
「それ故にでございますか」
「そうです。できればです」
信長にだ。阿国を見せたいというのだ。
「そう考えています」
「左様ですか。では」
「はい」
「都に戻ればです」
その時にだと。和田は言った。
「是非共信長公にお話しましょう」
「そうしましょうぞ」
「そうですな。しかしです」
「しかしとは」
「いえ、これで丹波も信長公のものとなり」
そしてだとだ。和田はこんなことも言ってきたのだ。
「そのうえで。播磨や大和、それに摂津等も手に入れられると」
「大きいですな」
「まことに」
そうだとだ。和田は今はこう言ったのである。
「天下統一にかなり近付きますな」
「そうですな。しかしです」
今度は丹羽がこう言った。
「天下は最後までわかりませぬ故」
「波乱もあるというのですな」
「波乱なきことなぞありませぬ」
丹羽は飲みながらも冷静に述べる。
「そしてそれがあるからこそです」
「わからないと仰るのですな」
「はい」
丹羽は静かに答えた。
「その通りでございます」
「ううむ、丹羽殿は慎重といいますか」
和田はその丹羽に対して述べた。
「いえ、違いますな」
「どうなのでしょうか。それがしは」
「考えておられますな」
それだというのだ。丹羽は。
「それもよく」
「そう言われますか」
「はい」
和田は丹羽のその顔を見て答えた。
「そう思いまする」
「ですか。それがしは」
「それでなのですが」
さらに言う和田だった。
「明日にはですな」
「はい、宴の後で」
どうするかというのだ。それからだ。
「都に戻りましょう」
「そうされますな」
「その前に殿に文を送らせてもらいます」
これは忘れない丹羽だった。
「そうさせてもらいます」
「左様ですか」
「はい、そうさせてもらいますので」
「わかりました。それでは」
「その文にはです」
ここでだ。丹羽は明智を見たのだった。
そのうえでだ。彼に特にだ。告げたのだった。
「明智殿のこともです」
「それがしですか」
「御知らせさせてもらいます」
信長にだ。そうするというのだ。
「この丹波のことを」
「有り難きお言葉」
「さて、それではです」
「そうしてですね」
「皆で丹波から都にあがりましょう」
丹羽は今度は武田や一色、波多野の者達を見ていた。
「そうしましょうぞ」
「ではその様に」
「我等も共に」
彼等も応えてだ。そのうえでだ。
共に酒を飲み宴を楽しんだ。その中でだ。
細川が立ちだ。舞を披露した。その舞を見て丹羽が言った。
「都の舞ですな」
「はい」
その通りだとだ。細川は答えた。
「この舞しか知りませぬ故お許し下さい」
「いえ、お見事です」
だが丹羽は微笑んでその細川にこう返した。
「それだけの舞を舞われるとは」
「ならいいのですが」
こうした話をしているうちにだ。ふとだった。
細川の家臣達がだ。丹羽の家臣達にこう話したのだった。
「実は我等の殿はです」
「舞だけではないのです」
「といいますと」
「他の芸も身に着けておられるのですか」
「そうです」
その通りだとだ。彼等は丹羽の家臣達に答えた。
「茶道も御存知ですし和歌も嗜まれます」
「それに料理もできまする」
「ほう、それはまた見事です」
「かなりの風流人なのですな」
丹羽の家臣達もその話を聞いて言う。実際にだ。
細川は優雅な舞を舞いそのうえでだ。周りを満足させていた。彼のその舞は宴を飾った。そしてそれはだ。そのまま織田家の祝いの舞であった。
第八十三話 完
2012・3・16
ページ上へ戻る