戦国異伝
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第八十三話 明智の覚悟その九
「それがしもです。はじめてこの話を聞いた時はまことに驚かれました」
「葡萄から酒を造れるとは」
「思いも寄りませんでした」
まさにだ。そうだというのだ。
「酒といえば米から造るものですから」
「しかしそれがです」
「南蛮では葡萄から造るとは」
「想像もできません」
そうだというのだ。日本にいてはだ。
そのうえでだ。今度は丹羽が言ってきた。
「しかも南蛮人、これは明の者もですが」
「肉を食いますな」
「はい、牛や馬をです」
「何と、噂には聞いていましたが」
「それはまことだったのですか」
武田家や一色家の者達がだ。その話を聞いてだ。
そしてだ。口々に驚きの声をあげた、
「南蛮人は牛や馬を食うのですか」
「あの様なものを」
「猪や山にいるものならわかりますが」
波多野家の者達も言ってきた。日本でも山の獣は食う。
「しかし。牛や馬を食うとは」
「また面妖な」
「あの様なものが果たして美味いのか」
「わかりませぬな」
「しかしあの者達は美味そうに食います」
このことをだ。丹羽は新たに織田家に加わった彼等に対しても話した。
「しかも坊主でもそうだとか」
「何と、坊主が肉を食うのですか」
「殺生を犯すのですか」
「何ということか」
「確かに。近頃は坊主でも魚や鳥を食います」
丹羽は今の教えの乱れていることも述べた。
「いえ、実は以前からですが」
「まあ。本朝の坊主も隠れて魚や鳥を食いますな」
「実際のところは」
「しかし。隠れてではなくですか」
「おおっぴらに食ってですか」
「殺生を犯しているのですか」
「どうやらあちらではそれが普通の様です」
丹羽はこのこともだ。驚きを隠せていない彼等に話した。
「坊主でも殺生を犯してそうしたものを食うことが」
「普通ですか」
「そうなのですか」
「はい」
まさにだ。そうだとまた答える丹羽だった。
「堺に寺も建っていますし」
「ほう、堺にですか」
「その南蛮の坊主の寺が立っている」
「そうなのですか」
「左様です」
丹羽は淡々と話す。
「そして九州や周防等にもです」
「南蛮の寺が建っているのですか」
「そうなっていますか」
「その様です」
「ううむ、南蛮の寺とは」
「一体どうしたものか」
「それはすぐに御覧になられます」
彼等の好奇心はそれで満たされるというのだ。
だがその中でだ。細川がこんなことを言ったのだった。
「用心すべきことがなければよいのですが」
「といいますと」
「はい、耶蘇教ですが」
南蛮の宗教のこの国での呼び名をだ。細川は出してそうしてだ。丹羽に話したのである。
「九州等では寺社を壊しているとか」
「寺や神社を!?」
「そうしていると」
「そうなのですか」
細川の今の話にはだ。丹羽だけでなく他の者達も驚きを隠せず声をあげた。宴の場がそれで一変した。そしてそのうえでこう言ったのである。
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