戦国異伝
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第八十二話 慎重な進みその六
「何かと」
「奥方殿にもですか」
「はい、しかし今こうして幕府にもいて」
そしてだというのだ。
「何とか禄をもらっております故」
「幕府での禄はどれ位でしょうか」
「百石程です」
それがだ。明智の今の禄だというのだ。
「それ程になります」
「そうですか。百石ですが」
「それが何か」
「より欲しくはないでしょうか」
丹羽はこのことはだ。明智だけではなく細川や和田等他の幕臣達にも話したのだ。
「今よりもです」
「禄をですか」
「今よりも」
「はい、どうでしょうか」
こうだ。幕臣達に言うのである。
「今以上に」
「しかし幕府はです」
明智がだ。その丹羽に断ってきた。
「今はこれ以上は」
「禄を出せぬというのですか」
「そうです。そんな余裕はありませぬ」
これまで実質山城一国を掌握していただけだ。だがそれも足利義輝が殺されたことで失われてしまった。その山城も信長が掌握しているのだ。
だからだ。今の幕府ではだというのだ。
「百石以上はです」
「いえ、ですから」
「ですからとは」
「織田家が出しましょうか」
これがだ。丹羽の提案だったのだ。
「我が織田家がです。百石以上です」
「出して頂けるというのですか」
「はい、幕府にいるままで」
織田家が俸禄を出すというのだ。これが丹羽の提案だった。
そしてそのことを聞いてだ。まずはだ。
細川が腕を組み考える顔になりだ。そして丹羽に答えた。
「幕府にいるままですか」
「無論公方様には殿がお話をすることになるでしょうが」
「我等は織田家の禄も受ける」
「そうなります」
「幕府にはこのままいて」
このことはだ。変わらないというのだ。丹羽はこのことは強く保証した。
「そしてです。功を挙げれば百石とは言わず何万石でもです」
「何万石!?」
「何万石とは」
「まさか」
これにはだ。細川や和田だけでなくだ。明智もだった。
驚きを隠せずにだ。こう丹羽に返したのだった。
「それではちょっとした大名程はあるではありませんか」
「そこまでになると」
「織田家は既に三百万石を超えております」
尾張等これまでに領国にした五国に近江の南、そして山城まで入れてだ。それだけになるというのだ。
そしてだ。丹羽はそれに留まらずだ。さらに言ったのだった。
「三好との戦に勝ちです」
「多くの国も手に入れると」
「さすればですな」
「七百万石を超えます」
近畿の殆どに播磨、それに今彼等が攻めている丹波といった国々だ。そうした国を全て手に入れればだというのだ。織田家はそこまでなるというのだ。
「ですから数万石ならばです」
「出せるというのですか」
「織田家は」
「左様です」
まさにだ。その通りだというのだ。
「ですから御安心下さい」
「功を挙げれば何万石でも手に入る」
「それが織田家なのですか」
「そこまでなるのですか」
「そうです。殿は力のある者は誰でも重く用いられます」
このことは広く知られていた。羽柴にしろ滝川にしてもだ。彼等の様に百姓の出であっても忍の出であってもだ。それでも力さえあれば用いられるのだ。
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