戦国異伝
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第八十二話 慎重な進みその五
そしてそれと共にだ。彼はまた言ったのである。
「そして国に泰平をもたらす為にもです」
「命を賭けるものだからですか」
「はい、左様です」
そうするというのだ。これが明智の考えだった。
「そのつもりでございます」
「見事ですな。ではその時に再び」
「本丸に近付いた時に言わせて頂きます」
「ではそれがしはその時に」
「ご決断下さい」
丹羽のその目を見てだ。明智は告げた。
「そうして頂きたいです」
「畏まりました。ではその時にそれがしもまた」
「お願いします」
「このことはここでは二人だけの胸の内に治めておきます」
「有り難うございます」
「ですが。後にです」
今はそうするがだ。やがてはだというのだ。
「公にして宜しいでしょうか」
「公にですか」
「明智殿の御心を知りました故」
だからこそだというのだ。明智はここでもはっきりと言った。
「ですから」
「それがしの心をですか」
「明智殿はこれ以上はないまでの覚悟を知りました故にです」
丹羽と明智がお互いに一歩も引かない。剣を抜いてはおらずましてや敵同士でもない。しかしだ。彼等はお互いに一歩も引かずだ。話をしていた。
そしてだ。丹羽はまた言ったのだった。
「ですから」
「そうですか。だからこそ」
「そうして宜しいでしょうか」
真剣にだ。丹羽は明智に問うた。
「この丹波を織田家のものとし都に戻った時に」
「それがしは特にこのことを誇るつもりはありませぬし恥じることもありませぬ」
「両方共ありませぬか」
「はい、どちらもです」
ないというのだ。誇ることも恥じることもだ。
では何があるのかもだ。明智は丹羽に話したのだった。
「ただ兵も民も戦が避けられるのなら巻き込みたくないのです」
「ですな。だからこそそれがしもです」
「そう言って頂けますか」
「そうして宜しいでしょうか」
「そう言われると辛いですな」
明智は丹羽の今の言葉を受けてだ。少し笑みになった。それからだ。
丹羽に対してだ。こう言ったのだった。
「今度はそれがしが決めることになりますな」
「はい、確かに」
「それがしとしましても。やはりです」
明智は丹羽が先程言ったことが自分にもかかっていることを感じていた。そうしてだ。
そのうえでだ。彼は述べたのだった。
「その時に決断させて頂きます」
「御互いにそうなりましたな」
「そうですな。まことに」
二人で話してだ。互いを知ったのだった。その中でだ。
丹羽は明智の人物についてだ。こんなことを本人に述べたのであった。
「明智殿はかなりの識見を持っておられると聞いていますが」
「いえ、それは」
「謙遜ではなくです。美濃でも知られていましたぞ」
「美濃のことですか」
美濃のことを言われるとだ。明智はふと懐かしむ顔になった。それからだ。
静かにだ。こう述べたのだった。
「あの頃のことはです」
「何かおありでしょうか」
「いえ、ありません」
それはないというのだった。しかしだ。
それと共にだ。明智はこうも言ったのだった。
「しかし。あの地を離れて朝倉家に入りそこから幕府に入り」
「仕え先を変えておられましたな」
「その間。妻にも苦労をかけました」
遠い目になっての言葉だった。
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