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戦国異伝

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第八十一話 信貴山城その八


「本朝の坊主と同じです」
「よき者も悪き者もいますか」
「しかしです」
 だがそれでもだというのだ。その宣教師達についてだ。
「その悪き者は本朝の坊主よりも厄介やも知れませぬな」
「延暦寺の僧兵共よりもですか」
「はい、あの者達がまだ可愛げがある程の様で」
「まさか」 
 滝川は延暦寺の僧兵達のことはよく聞いていた。昔から何度も都に攻め入り暴れ回っている。その厄介さは院政を敷く法皇でさえも手を焼く程だった。
 それでだ。滝川は彼らについてこう筒井に話したのだ。
「双六の賽の目と川の流れと僧兵はです」
「どうにもなりませぬな」
「賽はしなければいい」
 実は信長はこうした遊びはしない。
「そして川は堤を築いて何とかせねばならない」
「国を治める者としては」
「しかし僧兵はです」 
 一番最後のだ。こればかりはだった。
「どうにもなりませぬ」
「まだ興福寺はましです」
 筒井は大和のだ。この寺についてはというのだ。
「都から離れていますし話もできます」
「だから殿にも従われたのですな」
「はい、そうです」
 興福寺も確かに僧兵達を多く持っている。しかしだった。
 信長に従い矢銭も収めてきたしその命に従うとも言ってきているのだ。信長は検地を進め荘園から檀家というものに寺社の懐を変えようとしている。寺社の力を弱めようとしているのだ。
 しかしその信長にだ。興福寺は従う道を選んだというのだ。それは何故かというと。
「確かに興福寺の力は大きいですが」
「それでもですな」
「大和の少しばかりの場所に力があり国人共を従わせているだけです」
「それだけだからですか」
「織田家との力の差は歴然としております」
 この現実があった。織田家は最早それだけの存在になっていたのだ。
 そしてその現実を見てだ。興福寺は決めたというのだ。
「あの寺も織田家に従うことにして」
「そのうえで、ですな」
「国人衆をまとめ織田家に入ります」
「それは何よりです。ではこれからは」
「尾張の国人衆は織田家に入ります」
 そうするというのだ。筒井も含めて。
「そうしますので」
「貴殿等はそうして頂きますが」
「それでもですな」
「やはり松永は信用できませんな」
 滝川は難しい顔になってだ。また松永のことを話した。
「どうしても」
「左様ですか。しかし」
「それでもですな」
「殿が決められたことなら我等は従います」
 家臣としてそうするというのだった。
「御諌めすることもありますが」
「ですが信長様には何としても」
「はい、忠誠を誓っておりますので」
 それ故にだった。滝川自身の忠誠心もかなりのものだった。
「ですから」
「そうですか。それにしても」
「それにしてもとは」
「いえ、信長様はまことに素晴らしい方なのがわかります」
 滝川の心を見てだ。筒井もわかるのだった。そしてそれ故にだった。彼はこうも言うのだった。
「ですから一刻も早く御会いしたいですな」
「そう思われますか」
「はい、是非共」
「有り難いですな。では河内に入りそのうえで」
「信長様に御会いしたいです」
 筒井は既に信長に魅せられていた。そしてそれは他の大和の国人達も同じでだ。彼等はそれぞれ信長に会うことを期待しながらだ。信貴山城から河内に入るのだった。  
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