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戦国異伝

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第八十一話 信貴山城その七


 彼は唸る様に滝川に述べそのうえでだ。この茶器の名前も出したのである。
「しかもです。平蜘蛛です」
「あの茶器も相当なものだとか」
「その様ですな。あの茶器は見たことがありませんが」
「今この信貴山城にある様です」
 滝川が囁く様にだ。筒井に話した。
「家臣から聞きました」
「そうなのですか」
「しかしその目では見てはいないそうです」
「もっと言えば見ることができなかった」
「どうもかなり厳重に保管しているらしく」
 それだけ大事なものだというのだ。松永にとってもだ。
「ですから。何処にあるかもわからなかったとか」
「ですか。しかしですな」
「はい。松永は持ってはおりませぬ」
 その平蜘蛛をだ。そうだというのだ。
「ですから。あるとすればです」
「この城にしかない」
「そうかと。茶室や自分の部屋のどちらかにあるのでしょう」
「しかしですな」
「はい、それを見つけることはできませぬ」
 それは無理だった。忍である滝川の家臣達の手を使ってもだ。この城にあるということは察しがついてもだ。それでもそれはだというのである。
「とてもです」
「では仕方がありませんな」
「はい。しかしこの城は」
 ここまで話してあらためてだ。滝川は。
 倉庫の中を見回しそのうえでだ。筒井に言ったのであった。
「何度観ても。ただ美しいだけでなく」
「ですな天守閣や櫓の配置が絶妙で」
「しかも城の造りは迷路の如しです」
「この城を攻めるとなると容易ではありませんな」
「左様ですな」
 二人で話していく。そしてだった。
 滝川は倉庫を調べ終えて実際に外に出た。白い壁と灰色の石垣に黒い屋根。そういった色彩も実にいい。それで彩られた城の中はだ。やはりだった。
「見事ですな。この城は是非殿にも」
「御覧になって頂きたいのですな」
「はい」
 まさにそうだというのだ。
「そうして頂きたいです」
「そういえば信長様は美しいものも好まれるとか」
「そうですな。我が織田家の具足や旗、武具に鞍もです」
 そうしたものをだ。全てだというのだ。
「青にまとめております」
「見事な青ですな、あれは」
「武田が赤なのに対して我が家は青です」
「あれは対抗してでしょうか」
「いえ、殿は青い軍勢もいいものだと仰ってです」
 そのうえでだ。青になったというのだ。
「そうなりました」
「そうだったのですか」
「そうです。殿は緋色や金、銀といった色もお好きですが」
「青もまた」
「御自身の軍勢には青がいいと仰られ」
 そうしてだというのだ。
「青にされたのです」
「左様ですか」
「そうです。あと殿は南蛮のものもお好きです」
 それもだというのだ。
「堺に行かれた時に南蛮渡来のものもよく御覧になられていました」
「ふうむ。南蛮のものを」
「左様です」
「南蛮人はこの大和に来ることもあります」
 筒井は滝川にこのことを話した。南蛮人のことをだ。
「伴天連の宣教師も来ます」
「宣教師もですか」
「大抵はよき者の様ですが」
「それでもですな」
「はい、どの様なところにもよき者もいれば悪き者もおります」
 筒井もこのことはわかっていた。人は常に色々な者がいる。善人もいれば悪人もいるのだ。それは南蛮の者、その伴天連の宣教師もだ。同じだというのだ。 
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