戦国異伝
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第八十一話 信貴山城その三
「城には罠の類はありませんでした」
「そして兵も少なく警固です」
「これといってです」
「なかったというのか」
話を聞いてだ。滝川は信じられないといった顔になった。
そしてそのうえでだ。こう言ったのだった。
「信貴山城には何があってもおかしくはないと思っておったが」
「はい、それは我等もです」
「皆死を覚悟しておりました」
実際にそうだったと述べる彼らだった。
「しかしそれがです」
「罠もなく警固も緩くです」
「皆無事に帰られました」
「何もありませんでした」
「ふむ。噂とは違うのか」
滝川が馬上で腕を組み考える顔で述べた。
「信貴山城は」
「いえ、それがです」
「違うというのか」
「はい、それがし達の知っているあの城はです」
どうかとだ。筒井はその顔を険しくさせて滝川に話した。
「まさにからくりの城の様で。何があってもです」
「おかしくはないというのですな」
「だから誰も生きて帰っては来なかったのです」
筒井は真剣な顔で滝川に述べる。
「しかしそれが違うとは」
「どういうことでしょうか」
「わかりませぬ」
首を捻りながら述べる筒井だった。
「ただ。今のあの城はどうやら」
「危険はない様ですな」
「油断はできませぬが」
何しろ松永の城だ。それはできなかった。
だがさしあたって罠はないとわかってだ。滝川はこう筒井に述べた。
「ではとりあえずはです」
「はい、あの城に入り」
「色々と見ることにしましょう」
「そうですな。しかし信長様は人をすぐに見極められるといいますが」
「そのことが、ですか」
「はい。あの松永についてもですか」
「そう思うのが自然かと」
こうした話になった。そしてだ。
滝川は雪斎も見てだ。今度はこんなことを口にした。
「そういえばこの大和に和上も送られたのも」
「拙僧のことですか」
「興福寺のことを考えてのことですな」
「そしてですな」
「はい。和上は集った大和の国人衆をです」
今周りにいるだ。彼等をだというのだ。
「あの宴の後朝飯の後で」
「茶会を開き酒の他の場でも話をしたことですか」
「酒とはまた違った場で一同の本音を聞かれましたな」
「はい」
実はそうしたのだ。これは雪斎の判断でしたことだ。彼はただの禅僧ではない。政や兵法だけでなく茶道にも通じている。伊達に今川の知恵袋だった訳ではないのだ。
その彼が開いた朝の茶会でだ。国人達はだというのだ。
「茶を知らぬ者もそれに親しみを覚えましたし」
「そして興福寺の方々も」
「和上の見事なお手前に感服されてましたな」
「いえ、それは何でもありませぬ」
雪斎はここでは謙遜して述べた。
「拙僧よりもです」
「それよりもでございますか」
「はい。茶を知る拙僧を大和に送られた殿です」
雪斎もだ。彼のことを話すのだった。
「久助殿が仰った通りです。拙僧を大和に送られた殿のご慧眼がです」
「やはりそうなりますか」
滝川は雪斎の話をしてまた信長の話をしようと思った。しかしだ。
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