戦国異伝
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第八十話 大和糾合その十一
そしてだ。闇の中央から言ってきたのだった。
「ではです」
「話は終わりか」
「これでか」
「はい、おひらきにしませんか」
松永は闇の中にいる彼等に穏やかな声で告げた。
「そうしますか」
「そうじゃな。我等も話すべきことは終わった」
「ではこれでじゃ」
「今日は終わりとしよう」
「それではな」
「はい、それでは」
こうしてだった。話は終わりだ。
そのうえで松永速見から元の場所に戻った。そこは彼が休んでいる部屋だった。
目が覚めれば朝だった。その朝の日差しの中で身体を起こしだ。彼は言うのだった。
「織田は青」
織田家の色をだ。朝にも口にした。
「木の色であるが蒼天」
同じ青からだ。松永は述べていく。
「そして信長様は白日。蒼天の中の」
まさにそれだと告げてだ。そのうえでだった。彼は普段の服に着替えてだ。
そのうえで朝飯を食う。しかしだ。
その中で周りにいる彼の腹心達がだ。怪訝な顔で彼に問うた。
「その朝飯は大丈夫でしょうか」
「あの、そのです」
「今殿は周囲から警戒されております」
「いえ、命を狙われております」
「それならばです」
「この朝飯にも」
「毒か」
やはり穏やかな声で言う松永だった。その朝飯を前にして。
「それが入っていることもじゃな」
「充分考えられます」
「そのこともです」
「いえ、むしろ入っていると考えるべきでは」
「これは朝飯だけではないですが」
「そうかも知れぬ」
松永もその可能性は否定しない。しかしだった。
それでもだ。彼は平気な顔でこう述べるのだった。
「しかしじゃ。若しそうであってもじゃ」
「平気だというのですか」
「それがあっても」
「蠍は毒には当たらぬ」
全くだ。そうだというのだ。
「蠍は毒を持ち操る。それではじゃ」
「例え毒が飯の中にあったとしても」
「それは意味がない」
「そう仰いますか」
「左様。どうということはない」
こう言ってだ。そのうえでだった。
松永はその朝飯を食っていく。そうしてだ。
彼は汁を飲み干し魚を食い続いて飯を食いだ。こう言ったのだった。
「大丈夫じゃ」
「毒はですか」
「入っておりませぬか」
「そうしたものは」
「入っておらぬ。しかしじゃ」
「はい、それでもです」
「織田家の者達は」
松永の命をだ。隙あらば狙っているというのだ。
そしてだ。こうも言う彼等だった。
「殿に不審なものを見ればです」
「すぐに後ろから来ます」
「ですからくれぐれもです」
「ご注意を」
「注意することはない」
今度は漬け物を食いながら言う松永だった。
「楽しんでおるからのう、わしは」
「この状況をですか」
「楽しんでおられるのですか」
「そうじゃ。楽しい」
こう言ってみせたのだった。己の家臣達にも。
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