戦国異伝

「両者につながりめいたものを感じます」
「少なくとも松永はです」
　ここでまた言う筒井だった。
「魔と言われても疑いませぬ」
「それだけの怪しさがある故に」
「あれだけ何でも楽しみと捉えられる者はかなり強いです」
「では松永めは」
「今はお互いに攻めあわせます」
「三好の者達に対して」７４
「拙僧はこう考えています」
　ここで雪斎が言う言葉はこういったものだった。
「蠍と蠍が共にいれば争います
「共食いするそうですな、蠍は」
「御互いの毒を使って」
「では。蠍と蠍を互いに争わせて」
「力を殺ぎましょう」
　雪斎は今は織田家にいる。しかしだ。
　松永を信じる者、愛する者がいないからだ。こう言ったのだった。
「夷を以て意を制すです」
「三次と松永は共に賊」
「そうなのですか」
「そう考えております」
　雪斎は滝川と筒井に述べた。
「ですからここは賊を両方共です」
「潰し力を削ぐ」
「そうされますか」
「三好は普通に攻められます」
　今の三好家はだ。それができるというのだ。しかしだった。
　松永についてはだ。やはりこう言う雪斎だった。
「しかしこれが松永になると」
「織田家につきました故に」
「まさに思わぬ展開ですな」
「あればかりは」
「しかしそれをですか」
「敵と戦い死ぬのなら好都合です」
　雪斎の今の言葉は異常なまでに落ち着いていた。まるで氷の様に冷たくそして透けて見ている様な。まさに氷の透明がそこにある。
　そしてその冷たい透明でだ。彼はさらに述べた。
「一石二鳥です」
「双方が倒れればそれだけで」
「まさにそうですな」
「だからこそです。あ奴はやはり先陣にしましょう」
　滝川は軍を率いる立場からも述べた。
「精々殺し合ってやりましょう」
「そうですな。それでは」
「我等も」
　ここでだ筒井が言うとだった。
「あの者が何かおかしなところを見せれば」
「その時はです」
「進んで成敗させて頂きます」
「そうしますので」
「頼みますぞ」　
　滝川がその彼等の言葉を受けて応える。
「その時はくれぐれも」
「はい、信長様の為天下の為」
「あの男は油断できませぬ故」
「何としても」
「しかし。調べれば調べる程ですな」
　雪斎がここでまた言う。
「あの者は謎ばかりですな」
「全くです。まことに」
　筒井はまた雪斎に話した。
「あの男は得体が知れませぬ。それ故に」
「ですな。無気味でございまする」
　こう話してだった。彼等は首を捻りながら松永のことも話していたのだった。しかしだ。
　闇の中でだ。その松永がだ。ある者達と話していた。その彼に闇の中から言ってくる。
「御主、警戒されておるぞ」
「それはわかるな」
「そのことは」
「はい、よく」
　松永自身もだ。声達にこう返す。