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戦国異伝

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第七十九話 人たらしの才その十二


「播磨、そして大和からも攻め入れられてはじゃ」
「囲まれればですな」
「それで、ですな」
 ここで言ったのは吉川元春と小早川隆景だった。元就の息子達にして毛利家の両翼だった。
 その二人がだ。父に応えて言うのだった。
「三好殿はまず敗れる場所にいる」
「そういうことですか」
「そういうことじゃ。既にじゃ」
 囲まれてはどうしようもないというのだ。
 しかしそれだけではないとだ。さらに言う元就だった。
「しかも国人達が次々に織田殿についている」
「国をまとめきれておりませんな」
「その通りじゃ」
 今度は嫡子の毛利隆元が言う。元就は嫡子にも答える。
「その為兵も集らず国の中も綻んでおる」
「それでは戦になりませんか」
「戦の前から既に決まっておる」
 こうまで言うのだった。
「最早そうなっておるわ」
「では敗れるしかですか」
「ありませぬか」
「三好殿はな。緒戦で破れ」
 鴨川の合戦のことである。
「そして今度も破れ近畿からおられなくなる」
「ではやはりこのままですか」
「四国に」
「逃れるしかないですか」
「うむ、まだ力はそれなりにあるにしてもじゃ」
 それでもだというのだ。
「三好殿は敗れる。手を組んでおる他の家もじゃ」
「六角殿に波多野殿もですか」
「そして三好殿に従う国人達も」
「あの公方様も」
 足利義栄のことだ。まだいることにはいるのだ。。
「うむ、全て破れてじゃ」
「三好殿と共に四国に落ちるしかありませんか」
「破れたうえで」
「少なくとも三好殿は近畿を失う」
 このことも間違いないというのだ。
「もっとも三好殿は諦めることはないだろうが」
「ではですな」
 また隆元が言ってくる。
「四国に落ちてもすぐに」
「戦を挑まれるであろうな」
「その時には今以上に力を落とされていると思いますが」
「だれがそれでもじゃ」
「三好殿は織田殿と戦われますか」
「三好殿にも望みがあるし意地がある」
 この二つがあるというのだ。三好にもだ。
「そしてその二つ故にじゃ」
「三好殿はここで破れても織田殿と戦われますか」
「それでも」
 家臣達も唸る様に言う。そしてだ。
 元就は今度はだ。こんなことを言ったのだった。
「して我が毛利はじゃ」
「はい、どうされますか」
「我が家は」
「織田殿とは揉めぬ」
 これがだ、元就の考えだった。
「そもそも毛利家、わしは天下なぞ望まぬ」
「ですな。天下までは」
「そういったものは」
「うむ、決して求めぬ」
 まさにそうだというのだ。天下はだ。
「天下を求めればいずれその野心に操られることになりかねぬ」
「だからこそ野心に惑わされぬ為にもですな」
「天下は」
「うむ、求めぬ」
 こう言ってだ。元就はこのことも断言した。
「この山陽と山陰はともかくとしてじゃ」
「天下までは」
「そこまで欲をかくと恐ろしいことになるわ」
 こうも言うのだった。
「だからこそ織田殿と接すればそれで東は終わりじゃ」
「では後は西を」
「周防と長門を狙う大友をですか」
「討ちますか」
「それがよい。むしろじゃ」
 元就の目が光った。そのうえでの言葉は。
「攻めた方がよいであろうな」
「こちらから逆に九州にですか」
「あの場所に攻め入るのですか」
「そうじゃ。まずは尼子を倒し大友を脅かしじゃ」
 その両家が毛利の今の主な敵だった。そしてその他にもだった。
「備前や備中、備後に美作もじゃ」
「ですな。あの国々も手に入れていきましょう」
「大きく出ますか」
「大きく出るが天下は望まぬ」
 ただ領地を広げるだけだった。元就が目指しているのは。こう言うと北条と同じだった。北条にしても天下を目指してはいないからだ。目指すのは関東だけなのだ。
 その元就がだ。また言うのだった。
「織田とも出来る限りは揉めぬ様にするぞ」
「しかし織田信長はです」
 隆元が話す。
「天下を目指しているのならやがては我が家とも」
「そうやも知れぬな。しかし大事なのは家を保つことじゃ」
 戦よりもだ。それだというのだ。
「ではよいな」
「織田殿と戦をするよりもですか」
「家を守る為の戦はするがのう」
 天下を目指す戦はしないというのだった。こうした話をしてだ。
 元就は己と同じ緑の服の者達にだ。こう言ったのだった。
「あくまで毛利家と民を守る」
「畏まりました。では」
「その様に」
 家臣達も頷きだ。主の言葉に応えた。そしてそのうえでだ。彼等もまただった。信長を注視し彼等の今後のことも考えていくのだった。


第七十九話   完


                     2012・2・13 
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