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戦国異伝

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第七十九話 人たらしの才その八


「ここで大和の久助も攻めるとじゃ」
「三好はさらに追い詰められますな」
「うむ。そして六角と波多野も倒す」
 それもあるというのだ。
「近畿とその近くは全て織田家のものとなる」
「では殿」
 森もいた。池田と共に信長の傍に控えているのだ。その森もまた信長に話した。
「それではそこからですか」
「他の家を一気に併呑するというのじゃな」
「はい、そうされるのでしょうか」
「いや、まずは手に入れた国を治めることじゃ」
 それが先だというのだ。まずはだ。
「多くの国をな」
「ではそれからですか」
「また動くのは」
「そういうことじゃ。出来れば三好は完全に下したい」
 信長はこうも言った。
「四国までじゃ」
「四国の三好の領地も手に入れる」
「そうされたいのですか」
「無論じゃ。わしが望むのは都やその周りではない」
 より大きかった。信長が見ているものは。
「天下じゃからな」
「だからこそ四国もですか」
「ここで」
「そのうえで政に入りたい」
 手に入れた国を治める、それにだというのだ。
「暫くじっくりと治めたいものじゃ」
「手に入れられた国々をですか」
「播磨も近畿も全て」
「そうじゃ。まあ四国まではわからぬがな」
 三好の本拠地とも言っていいそこまではどうかと言ってもだ。それでもだった。
「しかしそれでもじゃ」
「手に入られた国は全て万全に治められますか」
「そしてこれまで通り丹念に細かいところまで」
 信長のそうした政のやり方はだ。森も池田も既に知っている。
 それでだ。二人は話すのだった。
「では我等も戦の後はすぐにですか」
「具足を脱ぎ即座に」
「そうじゃ。御主等の仕事は戦だけではない」
 このことは織田家ではとりわけ顕著だ。織田家は戦よりも政に重点を置いているのだ。手に入れた国をどう治めるか、信長の第一の関心はそこにある。 
 それでだ。戦が終われば終わりですぐにだというのだ。
「わかったな。その時はじゃ」
「はい、承知しております」
「その時のことは」
「ならよい。しかしあれじゃな」 
 信長は森と池田の話を聞きながらだ。ふとだ。
 首を少し捻ってからだ。こんなことを言ったのだった。
「今本拠地は岐阜にあるが」
「美濃の、ですか」
「あの国にありますな」
「そうじゃ。岐阜から都を見ておった」
 その為にあえて清洲から移ったのだ。信長は交通の要衝にして都まで一直線の場所にある美濃の岐阜を拠点に置いたのはそうした理由からだったのだ。
 だがここでだ。信長はこんなことを言ったのである。
「しかし都は手に入った」
「そして近畿に播磨も」
「ひいては丹後や若狭も」
 そうした国々を手に入れた。それによりどうなるかだった。
「それによってですか」
「変わるというのですか」
「その通りじゃ。都は手に入れ領地も広くなった」
 領地はかなりだ。このことが大きいというのだ。
「具体的に言えば西に広がった」
「はい、これまでは尾張や美濃を治めるまででしたが」
 池田がすぐに信長に述べてきた。
「ですがここで、です」
「そうじゃ。播磨まで治めることになった」
「それによってですか」
「領地が西に大きく広がった。それによってじゃ」
 どうかというのだ。信長もそのことについて述べていく。
「領地全体を治めるには少し無理が出て来るのう」
「特に播磨ですか」
 池田はその国のことを特に強く意識していた。
「それに丹後もですね」
「うむ。西の方まで治めねばならん。しかし美濃におるままではじゃ」
 これが上手くいかない危険もあるというのだ。それでだ。 
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