戦国異伝
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第七十八話 播磨糾合その六
「家族のことも実に難しいものじゃ」
「その辺りは豊かさには関係ありませぬか」
「天下を取ってもな。これは母君との話ではないが」
こう前置きして蜂須賀に話す信行だった。
「源氏もそうじゃったな」
「源氏ですか」
「あの家ですか」
「そうじゃ。源頼朝は知っておろう」
あまりにも有名な鎌倉幕府を開いた者だ。ただし人気はない。その人気のなさは戦国の世でも変わらない。ある意味において凄いことではある。
「源氏自体をな」
「確か常に身内で争っていましたな」
「そうじゃ。言うならば家族仲はよくなかった」
「互いに殺し合いそのうえで」
「遂には誰もおらんようになったわ」
そうなったとだ。信行は羽柴に話した。
「それで絶えてしまったわ」
「ううむ。何か蟹かザリガニの如くですな」
「どちらも互いに殺し合うからか」
「はい、蟹とザリガニも同時におれば殺し合いますが」
小川等で顔を見合せば殺し合うのだ。しかしだ。
蟹にしろザリガニにしろだ。お互いの種同士でもだ。顔を見合わせると殺し合う。源氏はそうした蟹やザリガニとだ。同じだというのである。
「難儀なことですな」
「それに対して平家はまとまっておった」
平清盛の下だ。少なくとも源氏の様に殺し合いの結果絶えはしていない。
「そこが大きく違うわ」
「そうなりますか」
「うむ。まあ極端な話じゃし兄上が困っておられるのは母上とのことだけじゃ」
基本的に人間関係は上手にいっているのだ。家臣達との間も含めて。
「それだけじゃ」
「しかしそれが実に厄介だと」
「そうなっておりますか」
「難儀なことに」
「どうにかなればそれに越したことはない」
信行も切実に思っていることだった。
「わしにしてもそれを願う」
「家臣でまとまっていても御母堂とはそうではないとは」
蜂須賀はそのことから世のままらぬことも感じていた。
「やりにくいものですな、何かと」
「全くのう。さて、ではじゃ」
母の話はこれで止めてだ。そのうえでだった。
信行は羽柴達にだ。あらためてこう言ったのだった。
「赤松殿に播磨の国人衆と会うか」
「そしてその中でもですな」
「うむ。小寺殿じゃな」
信行は羽柴に応えつつだ。その目を僅かに動かした。
「あの家の者で確か頭が随分切れる者がおったな」
「小寺官兵衛殿ですな」
すかさずだ。羽柴が言った。
「やはりその方とも会われますか」
「是非共な」
「やはりそうされますか」
「切れ者なら是非兄上にお話してじゃ」
そうしてだと返す信行だった。
「そのうえで重臣として用いてもらう」
「その為にも」
「一度わしも会ってみたい」
こう言うのだった。
「是非共な」
「それが宜しいかと」
秀長が信行のその言葉に応えて述べる。
「天下の為優れた者は何人いてもです」
「困らぬな」
「殿もそうお考えですから」
だからこそだというのだ。
「ですから」
「だからこそじゃな」
「特に軍師ですと」
どうかというのだ。それならばだ。
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