戦国異伝
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第七十八話 播磨糾合その一
第七十八話 播磨糾合
信行達は飛騨者の案内と術により丹波の山を無事越えた。そのうえでだ。
播磨に入りそのうえで姫路を目指す。その中でだ。
拳がだ。こう信行達に話した。彼等はまだ山の中にいる。その山の中を見回しての言葉だった。
「まだ山があります故」
「油断はできんか」
「はい、まだ山賊や獣がおります」
だから危ういとだ。拳は信行に話す。
「それ故にです」
「ここを越えればまずはじゃな」
「はい、我等に従うことを約束した国人達の領地に入ります」
「小寺だったか」
「いえ、別所だったかと」
その家だと聞いてだ。羽柴がこんなことを言った。
「別所殿となると少し厄介やも知れませぬな」
「何かあるのか?」
「はい、あの家は三好についたり離れたりしていたそうなので」
それでだというのだ。
「ですからあの家は少し信用できぬやも知れませぬ」
「ふむ。では我等が別所の領地に入っても」
「はい、いきなりということもあります」
「そうじゃな。ではどうするかじゃ」
信行は羽柴の言葉に眉を顰めさせて言った。
「いきなり襲い掛かられても飛騨者達がいるから対することはできるがじゃ」
「そうなってしまっては元も子もありませぬ」
命があってもだ。そうだというのだ。
「ですからまずは別所殿をしかとつなぎ止めることです」
「その為にじゃな」
「はい、利です」
それを出すとだ。羽柴は言った。
「もっとはっきり言えば褒美をです」
「それを出すことを約束してか」
「とはいっても口約束では向こうも信じませぬ」
羽柴はそのことはよくわかっていた。何しろこれまで多くの者と交わり多くのことを見てきたからだ。それだけによくわかっていたのである。
そしてそれ故にだ。彼は話すのだった。
「ですからここはです」
「持ち合わせのものか」
「別所殿にこれを渡しましょう」
言いながらだ。羽柴は都を出る時に信長から貰った袋を出した。そこには砂金が詰まっている。 それを出したうえでだ。信行に話すのだった。
「この中にあるもの全てをです」
「それでは旅の銭がなくなるぞ」
確かに砂金は多い。しかしだ。
それを全て使っては自分達が動けないと言う信行だった。彼は常識から話す。これまでは彼自身が信長から貰った銭を使っていた。しかしそれも尽きていたのだ。
そこでその砂金まで使ってはだとだ。彼は難しい顔で羽柴に告げたのである。
「それでもよいのか。飯を食うことも泊まることも難しくなるぞ」
「いえ、銭は作られます」
しかしこう返す羽柴だった。
「我等のこの手で」
「何じゃ、芸でもするのか」
「まずはそれがしの芸があります」
最初はそれだというのだ。
「それがし実は旅芸人の様なものをして旅をしていたことがありまして」
「針を売っていたのではなかったのか?」
「その他にはそうしたこともしていました」
「そうだったのか」
「路銀は多い方が助かりますので」
この辺り実にしっかりとしている羽柴だった。彼の金銭感覚は織田家随一である。それはこれまでの人生経験、まさにそうしたことから学んできたことだった。
「ですから」
「だからか。そうしたやり方もか」
「学んできております」
「ではその芸は何じゃ」
「猿真似です」
実際に頭の天辺をかりかりと掻く、猿の動作をしてみせて話す羽柴だった。
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