戦国異伝
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第七十七話 播磨入りその十
そのうえでだ。彼等にこうも言ったのだった。
「今は勘十郎さん達と一緒に播磨に行くも」
「そうでやんすな。見られてるのは気になるにしても」
煙も鞠のその言葉に頷く。彼は鞠に賛成した。
そうしてだ。煉獄も言うのだった。
「まあ今は何もできないからな」
「そうだね。出て来た時にとっちめればいいさ」
風も言う。
「それじゃあまずは播磨に行ってね」
「ああ、塩で一杯やろうぜ」
煉獄はここで軽くおどけてみせた。播磨では塩が知られつつあるのを知っての言葉だった。
「姫路についたら一休みできるからな」
「それはいいが」
ヨハネスはその重い甲冑を着ても平気で山の中を進んでいる。まるで何ともないように。
そのうえでだ。煉獄の今の酒の言葉に突っ込みを入れてきたのである。
「煉獄、貴殿は少し酒が過ぎるぞ」
「何だ?飲み過ぎてるっていうのかよ」
「左様、深酒は身体に毒だぞ」
「酒は飲む為にあるんだよ」
しかしそう言われてもだ。煉獄はだ。
憮然とした顔になってだ。そのうえでヨハネスに返したのだった。
「だからだよ。わしはどれだけでも飲むんだよ」
「それはよくない。酒は神も戒めておられる」
「手前のその神様がだな」
「そうだ。御主の神や。後は仏だな」
「どっちでもいいさ。大した違いはないさ」
「かなり違うと思うがな」
この辺りがヨハネスと煉獄達の宗教観の違いだった。だがこのことはこれで止めてだ。そしてそのうえで煉獄に再び酒のことを話したのだった。
「とにかく飲むのだな」
「ああ、好きなだけ飲むぜ」
「全く。信長様は飲まれぬというのに」
彼等も信長が酒を飲まないことは知っている。彼の下戸はかなり有名になっている。
それでここで信長を話に出した彼だった。
「御主は好きだな」
「そこは人それぞれだよ。慶次の旦那と同じだよ」
「そういえばあの御仁も酒好きだな」
「酒は飲めるなら飲めるだけいいんだよ」
「飲めるならか」
「そう言う御前だって飲んでるじゃねえか」
煉獄はヨハネスに対して言葉を返した。
「それなら一緒じゃねえか。違うか?」
「それはそうだが私は節度を保っている」
「いや、飲み過ぎだろ御前も」
「私は身体が大きいからな」
それはその通りだった。ヨハネスはかなり大柄だ。煉獄も背が高いがその彼よりもまだ頭一つ高くしかも筋肉質だ。その身体を基にして彼は話すのである。
「だからいいのだ」
「それを言ったら俺だって身体は大きいぜ」
煉獄も負けじと返す。
「だからいいんだよ」
「全く。口の減らない奴だ」
「何度でも言うさ。とにかくな」
「播磨の姫路に着けばか」
「塩を肴に飲むぜ。いいな」
「仕方がない。では私も御主の深酒を止める為にだ」
その為にだ。何をするかというと。
「共に飲もう」
「結局そうなるのかよ」
「他の仲間達もその筈だ」
「だからそれでいつも飲んでるよな」
「酒は主の血だからいいのだ」
ヨハネスは今度はこんなことを言い出した。
「ワインに限るがな」
「ワインはねえぜ、多分な」
「では米の酒で我慢しよう」
「それでも飲まれるのですね」
ヨハネスには鏡が突っ込みを入れた。淡々とだが確かな口調で。
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