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戦国異伝

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第七十七話 播磨入りその八


「こうして飛騨者達が頑張ってくれているからじゃな」
「だからだというのですか」
「うむ、そうじゃ」
 こう秀長にも返す。深い顔でだ。
「わし等は播磨に向かうことができるのう」
「そう仰いますか」
「今までこんなことは思ったことがなかった」
 家臣達の働きにだ。感謝の念を抱くことはだというのだ。
 しかし今はだ。どうかというのだ。
「しかし今は違うのう。わしも変わったか」
「それは殿を御覧になられてでしょうか」
「兄上は家臣の者をよく見ておる」
 これも信長だ。彼は人もよく見ているのだ。
 その彼を見てだ。信行もだというのだ。
「わしもじゃ。同じく人を見ておるとじゃ」
「そうなったというのですか」
「そうじゃ。しかも織田家は面白い者が多い」
 そのだ。家臣達がだというのだ。ここで信行は羽柴を見たのだった。
 そして彼を見つつだ。こんなことを言ったのである。
「猿か。よく言われたものじゃ兄上も」
「それがしを御覧になられましたが」
「うむ、見たぞ。御主が特にそうじゃな」
「面白いというのですか」
「わしもこれまであまりものが見えておらんかった」
 信行は羽柴を見ながら反省の言葉を述べていく。その間も播磨に向かって進んでいる。
「百姓でも何でもじゃ」
「わしは確かに百姓の出ですが」
 これは弟の秀長もだ。彼等はそうなのだ。
 だがそれでもだとだ。信行は今わかったのである。
「しかし能力があればじゃ」
「それで、なのですな」
「兄上は用いられる。認めておられる」
「だからわしもこうして今おるのですが」
「そうした広い視野は真面目なだけでは身につかぬ」
 信行が至った境地である。兄と家臣達を見てだ。
 そのうえでだ。また羽柴達に言った。
「全く。世の中というのは面白く難しいものじゃ」
「勘十郎様のお言葉とは思えませぬが」
 蜂須賀は真剣にそのことを疑っていた。
 それでだ。信行本人にこのことを尋ねたのだった。
「狐や狸ではありませぬな」
「そう見えるか?」
「若しくは慶次めが化けておるとか」
「わしはあそこまで大きくはないぞ」
 真顔でそのまま返す信行だった。
「それにあ奴は変装ができるのか」
「あ奴もあれで忍の血を引いてますから」
 しかし前田利家は違う。叔父と甥でもそこは違うのだ。
「変装もできるのではないでしょうか」
「妙に器用な奴じゃな。馬や槍だけでなく茶道や書にも通じておるしのう」
「通じておらぬのは政のことだけですな」
「あれはただ嫌いなだけじゃ」
 真面目な信行にしては慶次のそうした好き嫌いがどうも困ることだった。
「全く。好き嫌いを言ってはいかんのだがな。しかしわしはそういう説教はのう」
「お好きではありませぬか」
「平手の爺や権六がおるしのう」 
 織田家のご意見番達だ。特に平手がそうである。
「爺達が言うからじゃ」
「勘十郎様はそういえばそういうことはされませぬな」
「どうも苦手でのう」
 真面目であるが説教が苦手なのだ。それで言うのだった。
「あ奴にも言わぬ」
「言えばいいのでは?もっとも言って聞く御仁でもござらぬが」
 秀長もわかっていた。慶次は風来坊である。それで政等己が嫌いなことは絶対にしないのだ。そしてひたすら傾きそのうえで生きているのである。
 それでだ。信行はまた言うのだった。
「しかしやはりじゃ。言うことはじゃ」
「されませぬか」
「うむ、できぬ」
 慶次の話はこれで終わらせたがそれでも話に絡めるのだった。
「しかしじゃ。慶次にしても昔のわしは好まなかった」
「ですが今は」
「違いますか」
「うむ、それはない」
 こう言ったのである。慶次もいいとだ。 
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