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久遠の神話

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第五話 剣士の戦い四


 すぐにだ。己の言葉を打ち消して言ったのだった。
「文献の読み間違いでした」
「あっ、そうなんですか」
「只の読み間違いなんですか」
「その文献は私が偶然ある神殿で見つけたもので」
 そうした文献だというのだ。
「古代のものですから古代のギリシア文字で手書きだったので」
「ですよね。印刷なんてなかったですから」
「必然的にそうなりますね」
「しかも。布に書かれていました」
 紙もない。従ってそれもこうなることだった。
「判読は困難でした」
「それで読み間違えたんですか」
「そうだったんですね」
「そうです。しかし何はともあれです」
 どうかというのだ。その文献にある剣士達のことは。
「私は知っています」
「それで今こうしてですか」
「私達にお話してくれたんですか」
「そうです」
 まさにそうだというのだ。
「それでなのです」
「それでなんですけれど」
 ここでだ。上城は聡美に尋ねた。
「願いですよね」
「はい、そのことですね」
「願いを適えることができるんですか」
「剣士は。最後まで生き残れれば」
「そうですか」
 それを聞いてだ。上城は。
 難しい顔になりだ。聡美に尋ねた。
「それってどんな願いでもいいんですよね」
「そうです。死者を生き返らせることもお金持ちになることもです」
「適えられるんですか」
「一国の主になった者もいます」
 願いを適えてだというのだ。
「神の力でそうなるのです」
「神ですか」
「はい、神の力で」
 聡美は神と言った。
「そうなります」
「あれっ、そうだったら」
 そしてだ。神という言葉からだ。
 樹里は気付いてだ。聡美に対して問い返した。
「剣士の戦いって神様がやらせてるんですか?」
「それは」
「だったらどの神様ですか?」 
 樹里は口ごもった聡美にさらに問うた。
「一体どの神様が」
「ギリシアだと」
 上城もだ。樹里に続いて言う。
「あれですよね。ギリシアの神様ですよね」
「ゼウスとかヘラとか?」
 樹里は具体的なギリシアの神の名前を出した。
「ああした神様よね」
「そうなるよね」
「ギリシアって神様が多いけれど」
「誰なのかな」
「それは」
 まただった。聡美はその目を微かに泳がせて、二人が気付かないまでの小さな動きでそうさせて。それから目を戻して答えたのだった。
「そこまではわからないのです」
「そうですか。どの神様までは」
「わからないですか」
「すいません」
 二人に対して申し訳なさそうに述べた。
「わからなくて」
「いえ、そんなの」
「別に」
 二人はだ。その聡美に対してだ。
 それはいいとだ。こう答えたのだった。 
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