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戦国異伝

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第七十七話 播磨入りその二


 そしてその確信と共にだ。家臣達に話すのだった。
「我等もその間にじゃ」
「国を治めそうしてですか」
「そのうえで」
「うむ、力を蓄える」
 そうしてからだというのだった。
「それからじゃな。織田を迎え撃つ備えをしようぞ」
「まさか」
 それを聞いてだ。家老の一人である松田がだった。
 彼はだ。難しい顔になり氏康に述べたのであった。
「織田がここまで来るというのですか」
「そうです。織田がこの相模まで来るのですか」
「まさかと思いますが」
「よもや関東まで」
 他の北条の家臣達、二十八将の面々もだ。信長が相模まで来るという氏康の言葉にだ。眉を顰めさせてだ。そしてそのうえで氏康に言ったのである。
「美濃からここまでとは」
「有り得ません」
 そしてその根拠はというとだ。
「甲斐の武田殿がおられます」
「それに越後の上杉です」
「その両家がいてはとてもです」
「相模まで来られるとは思えませんが」
「普通に考えればそうじゃな」
 氏康もこうは言う。
「この小田原城まで来ることはじゃ」
「それはできません」
「絶対にです」
「どう考えても」
「しかしじゃ」
 どうかとだ。また言う氏康だった。
「織田は七百万石もの力を手に入れればじゃ」
「武田と上杉もですか」
「倒すことができる」
「それも可能だと仰るのですか」
「その通りじゃ。それも出来よう」
 数は力、そういうことだった。
 実際にだ。氏康も自分の家のことをだ。ここで言ったのであった。
「確かに我等は河越では十倍の敵を倒したな」
「しかしそれは例外としてですな」
「戦はあくまで」
「数じゃ」
 氏康もこのことはわかっていた。戦において最も重要なことはだ。
 それは数だ。まさにそれなのだ。
 それだと言ってだ。そして言うのだった。
「戦は数なのじゃ」
「その数を使えば武田も上杉もですか」
「あの両家ですら倒せますか」
「織田ですら」
「織田の兵は確かに弱い」
 その兵の弱さはあまりにも有名だった。もっとも氏康の相模兵にしても弱兵として知られている。他に三好や毛利もだ。お世辞にも強いとは見なされていない。
 しかしそれでもだ。例え弱兵であってもだというのだ。
「だが数とそれを養う兵糧さえあればじゃ」
「戦に勝てますか」
「必ず」
「うむ、それと将の質じゃ」
 それに加えてだった。将も大事だというのだ。
「それも大事じゃ」
「それはわかります」
「実によく」
 このことは家臣達にもよくわかった。それもよくだ。
「羊も狼が率いればですな」
「強くなる」
「そういうことですな」
「その通りじゃ。弱兵でも数に加えてじゃ」
 そしてだというのだ。
「飯とそれにじゃ」
「強い将がいればですか」
「戦に勝てる」
「例え武田や上杉が相手であろうとも」
 天下で強いといえばとにかくこの両家だった。まさに龍虎だ。
 そしてその甲斐の虎と越後の龍についてだった。話す氏康だった。
「武田は今二百万石で五万じゃ」
「そして上杉は百万石で二万五千」
「しかし上杉は」
「やがて越中や能登も手に入れる」
 その二国もだというのだ。
「そうなればじゃ」
「兵は三万を越えますか」
「上杉もまた」
「それに対して織田はおそらく十五万は手に入れる」
 それだけのものになるというのだ。織田はだ。
「三倍の敵に正面から戦えばまず勝てぬ」
「しかもそれがまともな将が率いているなら」
「それならですか」
「そういうことじゃ。弱兵でも戦い方があるのじゃ」
 氏康もよくわかることだった。相模の兵も弱いからこそだ。武田や上杉とまともにぶつかっても勝てはしない、北条の兵はそうした兵達なのである。
 だがそれでも勝って来た。その氏康の話だ。 
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