戦国異伝
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第七十七話 播磨入りその一
第七十七話 播磨入り
信長が都に入りそこからすぐに各国の制圧にかかったことは天下に知れ渡った。それを聞いてだ。
相模の北条氏康はだ。小田原城において家臣達に述べていた。
「おそらくどの国もじゃ」
「織田の手に落ちる」
「そうなりますか」
「うむ、そうなる」
それはだ。間違いないと述べる氏康だった。その顔は厳しい。
そしてその厳しい顔でだ。こうも言うのだった。
「して織田は間違いなく天下第一の勢力となる」
「都を制しただけでなくですか」
「さらに」
「今織田は尾張、美濃、伊勢、志摩、飛騨を掌握しておる」
まさにだ。信長の基盤だ。そしてそれに加えてだった。
「都に入るまでの近江の南半分に山城じゃ」
「都のある山城もですな」
「織田は掌握しました」
このことだけでも大きい。だがそれに加えてだった。
「大和、丹波、丹後、若狭、播磨、摂津、河内、和泉じゃ」
「合わせて十五国」
「天下の国の四分の一近くですか」
「それだけの国が織田殿の手に入る」
「そうなるとなると」
「文句なしに天下一の家となるわ」
それだけの国を手に入れればだ。まさにだというのだ。
そしてだった。氏康はかつてのこの家のことも話した。
「山名氏はかつては六分の一殿と呼ばれておった」
「天下の国の六分の一の守護だった故に」
「そう呼ばれていましたな」
室町の初期のことだった。だがあまりにも力を持ち過ぎ将軍足利義満に警戒された。そのうえ追い詰められ義満との戦になりだ。その力を弱められたのだ。
その山名が天下の六分の一である十一国だ。それに対してだった。
信長はだ。この一連の戦に勝ちだというのだ。
「十五国じゃ」
「大きいですな」
「合わせて七百万石ですか」
「それだけになりますか」
「石高でも第一じゃ」
実際に力でもだ。そうなるというのだ。
「その織田に対することはかなり難しくなる」
「ではすぐにでもですか」
「我が北条にも」
「この相模にも来ますか」
「そうなりますか」
「いや、織田信長があの信玄と似たところあがる」
武田信玄とだ。そうなるというのだ。
そしてだ。氏康は信長をこう見ているのだった。
「手に入れた国は徹底的に治めねば気が済まん」
「ではですか」
「その手に入れた国を全てですか」
「まずは」
「そうじゃ。全て治めにかかる」
まさにだ。そうするというのだ。
「あの男はな」
「では暫くはですか」
「織田殿はこの一連の戦の後は暫く動きを止める」
「そうなりますか」
「戦で手に入れた国は治めるものじゃ」
これは氏康もしている。彼もまた関東を制圧している。そして制圧しているならばなのだ。
「あの者もそれは同じじゃ」
「ではその十五国を万全に治めてですか」
「そのうえで力を思いきり蓄える」
「そうしてきますか」
「しかし動きは止まる」
それは間違いないというのだ。
「まして織田は瞬く間に尾張を統一し今に至るまでも早かったな」
「はい、まさに疾風でした」
「気付けばでした」
「そして今も瞬く間に果たす」
そのことを確実としてだ。氏康は家臣達に話す。
「それならばじゃ」
「その後はゆっくりとですか」
「国を治める」
「そうすると」
「だから暫くは動かぬ」
氏康の目は鋭い。そこには確信がある。
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