戦国異伝
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第七十六話 九十九茄子その十
「戦よりも政の方が好きですな」
「その通りじゃ。戦をしてもそこからが大事じゃからな」
信長自身もその通りだと述べる。
「だからこそじゃ。戦をするからには勝ちじゃ」
「そして手に入れた国をですか」
「都とて同じじゃ」
彼等が今いるそこもだというのだ。
「万全に治めねばな。しかし戦に勝ってからじゃな」
その信長の楽しみもだというのだ。こう話してだった。
信長は家臣達に命じたこととそのまま。己も加えて動くのだった。信長も家臣達も軍勢もだ。都には僅かに留まっただけでだ。再び大きく動くことになったのだった。
その信長の動きを見てだ。義昭はだ。
ようやく入られた御所においてだ。幕臣達に面白くなさそうに述べたのだった。
「信長はもうか」
「はい、摂津に向かって発たれました」
「その兵達を連れて」
残っている僅かな幕臣達が答える。多くの者は信長と共に出陣している。明智や細川といった主な面々は一人も残っていない。御所とはいえ寂しいものだ。
その寂しい中でだ。義昭は言うのだった。
「折角余が将軍になるというのに」
「いえ、それまでに戻られるそうです」
「義昭様が将軍に就かれるまでに」
「それまでに丹波や伊賀を手に入れてか」
「そして摂津、河内、和泉もです」
「あと丹波、若狭、播磨、大和も完全に掌握されるとのことです」
「余が将軍になるのは間も無くじゃ」
義昭は顔を顰めさせたまま再び述べた。
「それでそれだけの国をか」
「はい、全て公に帰されると」
「そう申されています」
「そんなことができるのか」
真剣にいぶかしんで言う義昭だった。
「僅かな間でそれだけの国を」
「織田殿は出来ると仰っています」
「必ずや」
「ううむ、大風呂敷ではないのう」
いぶかしんだまま言う義昭だった。
「果たして」
「織田殿はそうしたはったりは申されぬとか」
「それはあくまでだそうです」
「ですから」
「まことであればよいが。しかもじゃ」
義昭はここでなのだった。顔を曇らせてだった。
そのうえでだ。御所の己の席から言うのだった。
「あの松永めは信長にへつらっておるというがじゃ」
「その松永はですか」
「何としても」
「うむ、許せぬわ」
義昭のその顔に殺意が宿っていた。
その殺意で歪んだ顔でだ。そのうえでの言葉だった。
「あの者だけはじゃ」
「左様ですな。あの者はです」
「断じて」
幕臣達も義昭のその言葉に頷く。彼等にしてもだ。
松永は逆臣の中の逆臣、義昭の兄であった足利義輝を殺した者だ。それならばだった。
義昭も断じてだ。松永はだというのだ。
「三好の三人も許せぬ。しかしとりわけじゃ」
「あの松永は」
「例え何があろうとも」
「うむ、できれば余がこの手で成敗したい程じゃ」
そこまでだと言う義昭だった。
「信長も一体何を考えておるのじゃ」
「あの御仁は今一つわからぬところがありますが」
「今回は特にですな」
「腑に落ちませぬ」
「何を考えておられるのか」
「信長が帰り余が将軍になればじゃ」
まさにだ。その時にはだというのだ。
「あの者は必ず成敗するわ」
「では何としても」
「織田殿に問いましょう」
「あの男のことを」
「そうするに決まっておる。それにしても信長は」
義昭は顔を顰めさせたままだ。信長についても言った。
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