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戦国異伝

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第七十六話 九十九茄子その九


「武器や兵糧の一切を取り仕切らせてもらいます」
「頼むぞ。戦は戦の場だけでするものではない」
「そうしたものを充分に取り仕切ってこそですな」
「人は飯を食わねば死んでしまう」
 そうなってはだ。戦どころではない。これはもう自明の理である。
「だからじゃ。金はある」
「はい、それを充分に使い」
「そのうえで仕切ってみせよ。何しろここが正念場じゃ」
 都を手に入れだ。そこから多くの国を掌握し天下への地盤とするだ。
「ぬかりは許されぬからのう。殆どの者を戦や国人達への取り込みに向かう」
「だからこそそれがしが」
「うむ、この役目はそれぞれに向かわす大将と同じじゃ」
「では勘十郎兄上と同じく」
「戦の要じゃ」
 兵を率いて戦うのと同じだけ大事だとだ。信長は信広に話した。
 そしてだ。だからこそだというのだ。
「だからこそわしは出陣の時には爺か勘十郎を置いておいたのじゃ」
「ですな。言われてみれば」
「その通りですな」
 家臣達も信長のその言葉に頷いてなのだった。
 そうしてだ。こう言うのだった。
「では。後ろも整え」
「そうしてですか」
「三好も六角も波多野も退け」
「そのうえで天下の地盤を築かれますか」
「国を手に入れてじゃ」
 そしてなのだった。それで終わりではないのだった。
「治めることじゃな」
「そしてそのうえで」
「天下を目指しますか」
「天下は一気に手に入れるものではない」
 信長はこのことがよくわかっていた。それも実にだ。
「一歩ずつ確かに手に入れていくものじゃ」
「はい、ですから焦りは禁物です」
 竹中が信長に話す。
「ゆうるりとでもいいのです」
「確実に進むのがよいな」
「その通りです。それに殿の歩みはです」
「わしのそれはか」
「かなり速いかと」
 ここでは微かに笑ってだ。述べる竹中だった。
「尾張統一からここまで一気にですから」
「そうじゃのう。思えば瞬く間じゃったな」
「はい、ですから」
「わしは歩みの速さは遅くせぬがじゃ」
 それでもだというのだ。
「だがそれでもじゃ」
「確実にです」
「なら余計に都が大事になる」
 この度の周辺に兵を一気に向ける戦ではだ。そうなるというのだった。
 だが信長は都についても言及した。今度は眉をやや顰めさせる。
 そのうえでだ。都のことを言っていくのだった。
「都はやはり荒れておるのう」
「ですな。予想はしていましたが」
「やはり荒れております」
「商人もおり人もいますが」
「都としてはどうも」
「荒れておりますな」
「この戦では後ろとして何とかなろう」
 それだけの規模はあるというのだ。今の都でもだ。だがそれで満足する信長でなくだ。この戦を終えてから先のこともだ。考えてそうして話すのだった。
「しかし天下統一の都としてはじゃ」
「そして泰平の都としても」
「今のままでは」
「足りぬ」
 荒れた今のままではというのだ。
「仮にも都じゃからな」
「ではこの戦の後で」
「うむ、それだけの金はある」
 それならばだというのだ。
「ならば戦は早いうちに終わらせなければな」
「兄上はどうやら」
 都の留守を預かることになった信広の言葉だった。 
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