戦国異伝
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第七十五話 都に入りその十
「義昭様を奉じてここまで来られた織田殿と会いたいなどとは」
「とても信じられませぬ」
「そのことはです」
「やはり誰かと間違えているのではないでしょうか」
実際にこう言う明智だった。
「そうとしか思えませぬ」
「左様ですな。これはです」
「何かの間違いではないでしょうか」
幕府から来ている者達もだった。信じられないといった面持ちだった。
織田家の者達も同じでだ。柴田なぞはこう言う程だった。
「これは夢であろう」
「権六殿はそう仰いますか」
「松永が来るなぞとは」
「そうじゃ。悪い夢じゃ」
彼はとかくだ。今の状況を信じられないというのだ。
そのうえでだ。こうも言ったのである。
「若しここに来れば好都合じゃ。松永めをじゃ」
「成敗すべきですか」
「若しここに来れば」
「主である三好を侵食し公方様を殺め大仏を焼いた男じゃ」
その松永の悪行をだ。柴田は忌々しげに挙げたのである。
そしてそのうえでだ。信長に顔を向けてこう上申したのである。
「殿、若しあ奴がここに来ればです」
「殺すべきというのじゃな」
「それがしが斬ります」
柴田は自ら名乗り出た。
「あの悪党の首を義輝様の墓前に捧げましょう」
「それが宜しいですな」
林もだ。おおむね柴田と同じ意見だった。彼もこう言ったのである。
「今ここであの者を成敗しても誰も殿を責めませぬ。それどころかです」
「かえって今ここで松永を成敗すればじゃな」
「殿のお名前はさらにあがりましょう」
林まで言うとだ。他の家臣達もだ。信長に口々に言うのだった。
「殿、むしろこれは好都合かと」
「若しまことに本能寺に来ていればですが」
まだそれが本当なのか疑う声もあった。
「ですがその場合はです。あ奴を必ず成敗すべきです」
「断じて逃してはなりませぬ」
「何でしたらそれがしが成敗します」
「いえ、それはそれがしが」
「それがしがしようぞ」
逆にだ。銘々がそれぞれ名を挙げてだ。松永を討たせてくれという程だった。
「あの者だけは許してはいけぬ」
「許しては天下にとって大きな災厄じゃな」
「放っておけば今度は何をするやらわからん」
「それではじゃな」
「うむ、あの男は討つべきじゃな」
「必ずのう」
こう口々に言う彼等だった。そしてだ。
その彼等の意見を取りまとめる形でだ。信行が長兄に上申した。
「松永弾正久秀、例えここに来ていなくとも」
「大和におっても兵を送りじゃな」
「はい、滅ぼすべきです」
兄にだ。強い声で言ったのである。
「例え何があろうとも」
「ふむ。皆の意見は同じじゃな」
弟の言葉も聞いてだ。そのうえでだ。
信長は確かな顔で頷いた。まずはそうした。
この動作を見て全ての者が信長も松永を殺すことを決めたと思った。しかしだった。
信長は頷いた次の瞬間にだ。もうだった。
面白そうな笑みを浮かべてだ。こう家臣達に告げたのである。
「しかしわしがじゃ。あの男と会いたいのじゃ」
「何とっ、あの松永にですか」
「会われると」
「今もその様にお考えですか」
「そうじゃ」
その通りだとだ。信長は笑みを浮かべて述べた。
「会おうと考えておる」
「ですからそれはです」
信行は真剣そのものの顔で兄に告げる。身さえ乗り出さんばかりだった。
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