戦国異伝
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第七十五話 都に入りその四
「我等も無事では済みませぬ」
「そうでなくともあの山は険しい」
延暦寺のある比叡山、そこはだというのだ。
「迂闊に攻めては行かれぬ」
「聖地と言われるだけはありますな」
「そうじゃ。しかし聖地と言うのにはのう」
どうかと。かなりいぶかしむ顔でだった。
信長は首を捻りだ。そして言ったのだった。
「あの山はあまりにもじゃ」
「はい、政に携わっているせいでしょうか」
「あれものう。僧には学識がある」
信長自身も沢彦といった高僧から知恵を借りることが多い。彼等を無下に否定はしていない。
そのうえでだ。こう言うのだった。
「政で知恵を出すのも当然じゃ」
「それ自体はですな」
「しかしそろそろそれを終わりにすべきじゃな」
「僧が政に携わることは」
「うむ、だから延暦寺もああなったのじゃ」
「そして多くの寺社が」
「だからじゃ。今後は分けるべきじゃな」
信長は実際にそうして政をやってきている。尾張でも美濃でもそうしているのだ。
それでだ。彼は今も言うのだった。
「まあ延暦寺ともやがてはな」
「はい、今でなくとも」
こうした話もした。そうしてだった。
信長率いる織田の軍勢は都に入り義昭をそこに入れた。かくしてだ。
都に入った義昭は大喜びでだ。仮の御所としている寺でだ。こんなことを言うのだった。
「いや、ではじゃ」
「はい、それではですな」
「間も無く」
「うむ、将軍就任の式を挙げねばな」
こう細川と明智に述べたのである。
「是非共のう」
「いえ、今はです」
「もう少しお待ち下さい」
だが、だった。二人はだ。
「織田殿はまだ三好と戦をしなけばなりませぬ」
「すぐに摂津の方に行かれます」
「何と、上洛は果たしたというのにか」
義昭はそこまでしか考えていない。それでだ。
彼等のその話にだ。目を丸くさせてそうして言ったのである。
「まだ戦をするのか」
「丹波の波多野氏も三好に与しております」
明智は山城の北西に位置するその国の話をした。
「あの者達もおりますし播磨も気になるところです」
「そして大和にはです」
細川はその国の話をした。
「あの者がおりますし」
「松永じゃな」
「左様です。しかも伊賀には六角がいます」
「何じゃ、では四方敵だらけではないか」
義昭は細川にも言われだ。それでだった。
これまた目を丸くさせてだ。立ち上がりそうになる程興奮して述べたのだった。
「何時都を攻められるかわからんではないか」
「だからこそです」
それ故にだとだ。述べる明智だった。
「我等も出陣せねばなりませぬし」
「では式はか」
「暫しお待ち下さい」
「ううむ、余はここに留まったままか」
義昭はこれまた残念そうに述べる。
「難儀なことじゃな」
「暫しお待ち下さい」
こう述べる明智だった。
「織田殿は必ずです」
「都の周りをじゃな」
「はい、安んじられます」
そうするというのだ。
「ですから暫しの間だけです」
「では待っておるぞ」
かなり切実にだ。義昭は言った。
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