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戦国異伝

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第七十四話 都の東でその十


「その場合は」
「いや、結局は同じじゃ」
「同じでございますか」
「そうじゃ。同じじゃ」
 こう断言する松永だった。
「数が違うわ。それにじゃ」
「織田殿ですか」
「あの御仁もまた」
「そうじゃ。あの方はどうやらな」
 その青い軍勢の中のだ。信長の馬印を見た。それを見つつだ。
 松永はだ。さらに言った。
「将としてもかなりじゃ。家臣も揃っておる」
「ではやがて我が一族の敵となる」
「長老様が仰る様に」
「やもな。しかしじゃ」
 だが、だというのだ。ここでだ。
 松永は楽しげに笑いだ。こんなことも言ったのだった。
「面白い御仁じゃな」
「面白いですか」
「織田殿が」
「さて、ではその面白き戦をじゃ」
 今信長が行っているその戦も面白いというのだ。見ればだ。
 三好の軍勢は大急ぎで川を渡っていく。織田の軍勢は次第にだった。
 その動きを乱していた。それを見てだった。
 三人衆はさらにだ。己の軍勢を急きたてるのだった。
「見よ、我等の勢いに恐れをなして逃げようとしておるわ!」
「ここじゃ、ここで攻めよ!」
「如何に大軍であろうとも勝てるぞ!」
 こう兵達を急きたててだ。彼等は一気に進む。そのまま織田軍に突っ込まんとしていた。 
 しかしだ。ここでだった。
 彼等の正面に位置していた鉄砲隊がだ。にわかに構えを取った。その彼等を指揮するのは。
 明智だった。彼は青い具足に陣笠の足軽達に対してだ。こう命じていた。
「まだじゃ」
「まだですか」
「まだ撃たれませんか」
「充分に引き寄せてじゃ」
 それでだというのだ。
「よいか、そのうえで撃て」
「そしてなのですか」
「思いきり引き寄せて撃つ」
「そうせよと」
「そうじゃ。撃て」 
 まさにそうせよとだ。明智は言うのだった。そしてだ。
 明智は三好の軍勢も見た。彼等はだ。
 ただひたすらだ。自分達に向かって駆けてきている。刀や槍は手にしているが碌に構えられてはいない。
 そして具足等も乱れている。それを見てだった。
 明智はだ。確かな声で述べた。
「狙うには充分じゃな」
「では落ち着けばよいのですか」
「かなりの勢いですが」
「それでもなのですか」
「うむ。思いきり引き寄せてじゃ」
 それでいいと言うのだった。敵が乱れているのを冷静に見てだ。
 それでだ。織田の足軽達をだ。
 落ち着かせそのうえで構えを取らせる。火蓋は何時でも切れる様にしてある。
 しかもだ。その鉄砲隊はだ。
 一段だけでなくだ。その後ろにだ。
 また一段あった。その彼等に対してもだ。明智は言った。
「先の段が撃てばじゃ」
「その次は我等ですな」
「我等が撃つのですか」
「そうじゃ。二段撃ちじゃ」
 それを仕掛けるというのだ。
「それで攻めるのじゃ」
「ううむ、二段撃ちですか」
「そんなやり方があったのですか」
「紀伊の雑賀衆等がしているという」
 こうしただ。二段撃ちをだというのだ。
「あの者達は鉄砲に秀でた忍達じゃからな」
「その彼等のやり方を真似た」
「そういうことでございますか」
「そうじゃ。それを今ここで行いじゃ」
 そしてだというのだ。
「勝つ。よいな」
「では」
 こうしてだった。さらに迫る三好の軍勢がだ。真合いに来たその瞬間にだ。 
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