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戦国異伝

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第七十三話 近江掌握その十一


 幸村も同じでだ。こう信玄に言うのだった。
「ううむ、御館様はそこまでお考えなのですか」
「そうじゃ。何かあるか」
「御見事です」
 強い声でだ。幸村は頷きつつ主に言った。
「それがし常に正々堂々と戦う性分でございますが」
「しかし相手の隙を衝くのも戦ぞ」
「その通りでございます。さすればその時に織田を攻め」
「一気に倒すのだ」
「左様ですな。ではその時は」
「武田の総力で攻める」
 そうするというのだ。
「そしてそのうえで勝つ」
「ではそれがしも」
「無論じゃ」
 言うまでもないことだとだ。信玄は幸村に返した。
「特に御主はじゃ」
「戦の場において武勇を震わせて頂けるのですか」
「また先陣を命じる」
 駿河攻めの時とだ。同じくだというのだ。
「わかったな」
「はい、ではその時は喜んで」
「それにじゃ」
 喜ぶ幸村にだ。信玄はさらに言う。
「御主の忍の者達じゃ」
「十勇士でございますか」
「あの者達にも頑張ってもらおう」
 そのだ。幸村に絶対の忠誠を誓う彼にとっては家臣であると共に無二の親友である彼等のこともだ。信玄はここで話したのである。
「是非共な」
「畏まりました。では戦の場だけではなく」
「わかっておるか」
「忍とは何か」
 幸村も信玄に確かな声で返す。きびきびとした若々しい声だった。
「それを考えますれば」
「ならばよい」
 信玄は幸村の今の言葉にその顔を綻ばさせた。
 そのうえでだ。こう彼に言うのだった。
「では普段よりじゃ」
「織田のことを調べておきまする」
「うむ。流石じゃ」
 今度も幸村を見ての言葉だった。
「わしが見込んだだけはある」
「有り難きお言葉」
「では頼んだぞ」
「はい、さすれば」
 こうしてだ。幸村にしかと命じたのだった。その時に密かに目でやり取りもした。言葉にはお互いに出さずにだが確かにだ。それも終えてそうしてだ。 
 信玄は今は信長の動きを静観することにした。しかしそれはただ見ているだけではなかった。
 中の政を行い兵を鍛えだ。そのうえでのことだった。
 そしてその中でだ。信玄に命じられた幸村はだ。
 上田城に戻りその中でだ。まずは呼んだのだった。
「おるか?」
「はい、こちらに」
「お呼びでしょうか」
 呼べばだ。その瞬間にだった。
 幸村の前に彼等が出て来た。影の様に。
 そしてその彼等にだ。幸村はまずはこう労いの言葉をかけたのである。
「よく来てくれた」
「いえ、幸村様のお言葉とあらばです」
「我等十勇士、例え火の中であろうとも水の中であろうともです」
「すぐにこうして馳せ参じましょう」
「よく言ってくれた。それではだ」
 彼等の言葉を受けたうえであった。幸村はだ。
 あらためて彼等にだ。こう話すのだった。
「今近畿で起こっていることは知っているか」
「織田信長がですか」
「盛んに動いておる様で」
「そのことですな」
「その通りじゃ。織田殿は間違いなく近畿も掌握されるだろう」
 十勇士に話すのはこのことだった。
「だからこそじゃ。御主達に頼みがある」
「織田と一戦交えるのですかな」
 猿飛だった。彼は幸村に楽しげに笑ってこう言ってきた。 
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