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戦国異伝

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第七十二話 六角との戦その五


 そしてそのうえでだ。こう言ったのである。
「よいな。そうせよ」
「飯を食い休み」
「そうして明日なのでは?」
「まあ今はたんと食うのじゃ」
 笑ってだ。先のことは隠し続けるのだった。
「わかったのう。これで」
「はあ、それではです」
「その様に」
 足軽達も羽柴の言葉に頷きだ。そのうえでだ。
 今は飯をたらふく食い疲れを癒すと共に力も蓄える。そうして夜を迎えるのだった。
 その夜になるとだ。すぐにだった。
 丹羽がだ。全軍に告げたのである。
「ではこれより全軍でじゃ」
「全軍で!?」
「と、いいますと」
「攻めるぞ」
 城をだ。そうするというのだ。
「よいな、それではじゃ」
「いや、ここで夜襲でございますか」
「それはまた意外な」
「これには驚きました」
「そうじゃな。誰でも驚くわ」
 かく言う丹羽自身も言うのだった。
「無論敵もじゃ」
「敵も驚く」
「わし等と同じ様に」
「それではでございますか」
「このまま」
「一気に攻め落とすぞ」
 丹羽がだ。兵達を率いてだった。
 四方から歓声を挙げさせる。その闇夜からの歓声にだ。城の兵達は。
 大いに驚きだ。そして言うのだった。
「な、何じゃ!?」
「まさか敵か!?」
「敵が来たというのか!」
 丁度飯を食い寝ようとしていたところだ。そこに歓声が響いてきてだ。
 彼等は驚いて起き上がりだ。そのうえで城の外を見ようとする。そこにだった。
 織田の兵達が闇夜の中から一気に来る。そうしてだ。
 城門を開け次々に雪崩れ込もうとしてくる。その中でだ。
 丹羽がだ。軍配を手に言うのだった。
「降る者は刀も弓矢も捨てよ!そしてしゃがめ!」
「そうした者は命は取らぬ!」
 滝川も同じ様に告げる。
「立っており刀を持っている者だけを斬れ!」
「降る者の命は奪うな!」
「何っ、降れば助かるのか!?」
「死なずに済むのか!?」
 闇夜の混乱の中のこの言葉にだ。六角の兵達は。
 忽ちのうちに浮き足立ちだ。そしてだった。
 次々と武器を捨てて座り込む。これが決め手になった。
 箕作城は呆気なく織田家の手に落ちた。その報はすぐに観音寺城を囲む信長のところに送られる。それが送られるのを見届けてからだ。城の中に入った丹羽は羽柴に言ったのである。
「今回は御主が一番手柄じゃな」
「いや、それがしは何も」
「いやいや、御主がおらねばここまで楽には陥とせなかったぞ」
 笑みでだ。羽柴に対して言う丹羽だった。
「このことは殿にもお知らせしておいた」
「何と、殿にもですか」
「そうじゃ。これでまた御主が褒美を貰えるな」
「ではその褒美で」
「何をするつもりじゃ?」
「母上にいい服でも買います」
 ここでも親孝行だった。
「そして余った金でねねにも」
「ほう、御母上と山の神様にじゃな」
「ねねはどうも着飾ったりするのを好みませぬが」
 恥ずかしそうに笑って身振りまで入れて話す羽柴だった。
「いや、中々顔は整っていましてな」
「むう、またそれか」
 丹羽の横にいる滝川は苦笑いで羽柴に応える。
「猿はのろけが好きじゃな」
「のろけになりますか」
「それ以外の何じゃ」
 滝川はその苦笑いのまま羽柴に問う。 
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