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戦国異伝

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第七十一話 羽柴秀吉その三


 彼はだ。羽柴を見つつだ。そのうえで彼に言ったのである。
「御主はその名を大事にせよ」
「では羽柴で宜しいのですね」
「よい名じゃ。しかも縁起がいいのう」
「はい、『はしば』ですから」
「では権六や五郎左の様に働き」 
 そうしてだ。さらにだと言う信長だった。
「つなげる男になるのじゃ」
「さすれば」
「御主もじゃ」
 信長は羽柴と共に姓を変える秀長にも声をかける。
「よいな。そうした者になるのじゃ」
「働き、つなげる男にですね」
「そうじゃ。なるのじゃ」
 信長は微笑みつつ彼にも告げる。
「よいな。それではじゃ」
「はい、それでは」
 こうしてだった。羽柴兄弟はだ。羽柴という姓で定まったのだ。
 それを決めた羽柴にだ。前田が声をかける。彼はこう羽柴に言ったのである。
 まだ休憩中だ。間も無く出発するがその間にだ。彼等は話したのである。
「猿も考えるのう」
「名前のことじゃな」
「うむ。わしは前から又左じゃ」
 その名を自分で言うのである。
「槍の又左。これで決まりじゃ」
「ふむ。又左は確かに犬千代よりもそっちじゃな」
「しっくりくるか」
「わしはそう思う」
 こうだ。羽柴は前田にその人懐っこい笑みで話すのだった。
「やはり槍じゃ。又左は」
「ふむ。槍の犬千代ではな」
「何かが違うじゃろ」
「確かに違う」
 その通りだとだ。前田も羽柴のその言葉に頷く。
「槍を言葉につけるとじゃ」
「又左の方がよいな」
「うむ、よい」90
「そうじゃな。しかしじゃ」
 ここでだった。前田は懐からあるものを出してきた。
 それは算盤だった。珠が打ち合いじゃらじゃらと鳴る。それを羽柴に見せて話すのだ。
「最近これも覚えておるところじゃ」
「計算か」
「そうじゃ。算盤を使ってじゃ」
 計算をしているというのである。あえて算盤を使って覚えて。
「そうしておる」
「政にも励んでおるのじゃな」
「わしも槍ばかりでは芸がない」
 それでだというのだ。
「こちらも覚えておるところじゃ」
「ではこれからは槍の又左ではなく」
「算盤の又左かのう。しかしこれは」
「どうもしっくりいかんな」
「うむ。何かが違うのう」
 首を捻り言う前田だった。
「算盤を出すのはよくないか」
「犬千代でもそうなると思うぞ」
「では呼び名は槍のままでよいな」
 前田は自分で結論を出した。
「わしは槍の又左じゃ」
「それでいくか」
「うむ、これでよい」
 こうしてだ。前田は自分で結論を出したのである。
 しかしだ。そのうえで算盤を弾いてだ。こんなことも言うのだった。
「じゃが色々と芸は身に着けていかねばな」
「それがその算盤か」
「そうじゃ。さもなければ殿のお役に立てん」
 そんな話もするのだった。そうしてだ。
 織田軍は美濃と近江の境で浅井、そして徳川の軍勢と合流した。織田の青だけでなくだ。 
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