戦国異伝
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第七十一話 羽柴秀吉その二
「これで決まりじゃな」
「はい、さすれば」
「御主もこれからは羽柴秀長じゃ」
弟に対してもだ。笑って言うのであった。
「それでよいな」
「いい名だと思います」
「御主に言われたが。確かによい名じゃな」
唸る様にしてだ。彼、羽柴秀吉はその名を確認する。
「縁起がよいし尚且つ中々格好がよい」
「だからこそですか」
「この名にしようぞ」
こうしてだ。彼は羽柴秀吉となった。そのうえでだ。
信長と他の家臣達にだ。こう言うのだった。
「それがしの名はこれより羽柴秀吉でございます」
「羽柴じゃと」
その名を聞いてだ。まず声をあげたのは柴田だった。
彼は気付いた顔になりだ。こう彼に言った。
「わしと五郎左の名を使っておるな」
「確かに」
柴田に続いて丹羽も言う。織田家の重臣二人がだ。
その二人がだ。こう次々に言うのだった。
「何じゃ、わしにごまをするというのか」
「そういうことはあまり好まぬが」
「うむ、猿よそんな名前の付け方は止めておけ」
「他のものにしてはどうか」
「いえいえ、これはごますりではありませぬ」
それは確かだとだ。羽柴は止める二人に笑って話すのだった。
「まず。戦では権六殿の如く激しく攻め」
「それでわしか」
「そして政では五郎左殿の様に抜かりなく」
「それでなのか」
「左様です。それに『はしば』です」
続いてだ。この言葉も出したのである。
「これは『橋場』にもなりますな」
「地と地をつなぐ」
今言ったのは明智だった。彼は既に客将として陣中にいるのだ。彼の他には細川もいる。
その彼がだ。『はしば』と聞いて言ったのである。
「そういう縁起も担ぎましたか」
「むっ、明智殿はおわかりになられましたか」
「十兵衛でいいです」
その名で呼んでくれと述べる明智だった。
「それでお呼び下さい」
「畏まりました。ではあらためて」
仕切りなおしという形から再び明智に述べる木下だった。
「十兵衛殿」
「はい」
「十兵衛殿にはこのことがおわかりになられましたか」
「何となくですが」
「ふむ。結構頓知めいたものをかけたのですが」
「全く。猿らしいわ」
頓知と聞いてだ。柴田が苦笑いと共に述べた。
「わしが戦しか知らぬという風に言うしのう」
「いやいや、そんなことは言ってませぬぞ」
「わかっておるわ。しかしわしの如く攻めるか」
そのことについてだ。柴田は真面目な顔になってだった。
羽柴にだ。こう言ったのである。
「その様にせよ。織田家の為にな」
「はい、それでは」
「わしも戦でも頑張っておるがな」
今度は丹羽だった。彼にしろ戦においても働きを見せている。この辺り実は政においても中々のものを見せる柴田と同じだ。彼等は一辺倒ではないのだ。
「しかし。政をそつなくこなしたいか」
「そう考えております」
「よいことじゃ。ではじゃ」
「はい、さすれば
「織田家の為に働いてくれ」
丹羽もだ。こう羽柴に声をかけた。
「よいな。思う存分じゃ」
「畏まりました。それでは」
「では猿よ」
この場でははじめてだった。信長が口を開くのは。
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