久遠の神話
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第三十一話 広瀬の秘密その二
「俺も結構苦労する」
「だよな。大きいからな」
「二メートル用の馬だからな」
広瀬は一八〇を超えている。彼も確かに大柄だがそれでもなのだ。
「大きさがもうな」
「桁違いだからな」
「足が長くてよかったな」
部員の一人が広瀬の足を見て笑って言ってきた。
「そこんところは」
「だよな。乗馬って足長い方がいいからな」
「その方が有利だからな」
スポーツはどうしても体格が影響する。それは乗馬も同じだ。
見れば広瀬は足が長い。その足が今役に立っているのだった。
「俺はちょっとな」
「俺も無理だな」
他の部員達は赤兎、広瀬が今乗っているその馬に乗るのはどうかというのだ。
「足がもう少し長かったらな」
「もっと身体が大きかったらな」
「赤兎も楽に乗れたんだけれどな」
「そこまでないからな」
「足だよ、足」
乗馬にはそれだとだ。彼等は特に言い合う。
「今川義元も馬乗るの下手だったらしいからな」
「ああ、あの人凄い胴長短足だったらしいな」
「何かそんな話あるよな」
俗説だがよく言われていることだ。今川義元は戦国大名だが確かに乗馬は不得手だったのだ。それが桶狭間での討ち死にの要因なったとも言われている。逃げられなかったからだ。
「輿に乗って移動していたらしいしな」
「馬に乗るのが下手だったのは確かだな」
「そうだよな」
こう話すのだった。そしてだ。
そうした話をしたうえで広瀬を見送ってからだ。彼等もだ。
それぞれの馬を出して乗馬に入った。広瀬はその彼等と一旦別れて馬に乗ったまま農学部の方に向かった。そこには牧場があった。
その広い牧場に来るとだ。早速だ。
作業用の青いツナギの作業服の若い男がだ。馬上の彼に言ってきた。
「おっ、乗馬部のだね」
「はい、広瀬です」
馬上からだ。広瀬は一礼してその若い男に答えた。
「ちょっと来たんですけれど」
「由乃ちゃんかな」
「彼女いますか」
「いるよ」
男は彼を笑顔で見上げて答えた。
「今ここにいるけれど会うかい?」
「お願いします」
こう答える広瀬だった。
「それでは案内してくれますか」
「呼んだらこっちに来るけれど?」
「俺の方で行きます」
赤い馬の上からだ。彼はそうすると返した。
「それで宜しくお願いします」
「わかったよ。じゃあ由乃ちゃんはね」
「牧場の何処にいますか」
一口にここにいると言ってもだ。牧場はかなり広い。八条学園、広いことで有名なこの学園でもかなり広い部分を占めているのだ。
その牧場を見回しながらだ。彼はツナギの作業服の男に尋ねた。
「牛舎ですか?」
「うん、そこだよ」
「わかりました。今からそこに行きます」
「うちの学校は牛も多いからね」
農学部らしくだ。そうだというのだ。
「いや、あの子達の世話も大変だよ」
「牛もあれで手間がかかるみたいですね」
「馬と同じだよ。繊細なんだよ」
男は笑顔で広瀬に話す。
「だから世話が大変だよ。けれどね」
「その世話がですね」
「これがまた楽しいんだよ」
男はまた広瀬に話す。やはり笑顔で。
「牛だけじゃないしね」
「ここには豚も羊もいますね」
「勿論山羊もね」
色々な動物がいるのだった。ここには。
「当然犬も猫もいるよ」
「本当に多いですね」
「それで由乃ちゃんはね」
彼女はどうかというのだ。
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