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久遠の神話

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第二十九話 闇を払うものその十


「そのどちらを」
「選択肢が二つというのはです」
「何でしょうか」
「寂しいですね。もう一つ欲しいものですね」
「もう一つ、ですか」
「勝つ」
 それだというのだ。
「俺が勝って生き残る。それです」
「それだというのですか」
「俺が選ぶ選択肢はそれです」 
 この状況の中でもだ。広瀬の目は死んでいなかった。
 そしてその生きている目でだ。彼自身の剣を振った。するとだ。
 彼に迫る光の周りに無数の木の葉が生じた。そしてその木の葉達がだ。
 光を完全に包み込みそうしてだ。動けなくしてだ。
 そのまま光と相殺したのだった。こうして光球を全て消し去ってしまった。
 後には光にまとわりつかなかった木の葉達だけが体育館の床に舞い落ちていた。その木の葉達を見てだ。高代は剣を手に広瀬に言った。
「光に対するにはですか」
「光を消せばいい」
 確かな笑みでだ。広瀬は言ってみせた。
「そうすればいいだけです」
「見事です。光のこともわかっておられるのですね」
「少なくとも愚かではないつもりです」
 愚かではない、だからだというのだ。
「光の弱点もわかっています」
「その通りですね。無敵のものなぞこの世にはありません」
「例えそれが光であっても」
「光もまた絶対のものではありません」
 高代自身、他ならない彼の言葉だ。
「だからこそですね」
「そうです。今度はです」 
 広瀬は剣を右から左に振った。するとだ。
 床に舞い落ちていた木の葉達が一斉に浮き上がった。そうしてだ。
 まるで生き物の様に動き高代の周りに来た。そのうえで彼を覆おうとしてきた。その木の葉達、一見して無害なそれ等を見てだ。高代は言う。
「無論ただの木の葉ではないですね」
「その通りです」
「触れれば切れる」
 剃刀の様にだというのだ。
「そうしたものですね」
「はい、そうです」
 まさにそうだというのだ。広瀬にしても。
「俺の木の葉はただの木の葉ではありません」
「成程。ではです」
「この木の葉にはどうされますか?」
「光は確かに無敵ではありません」
 高代は今しがた自分で言った言葉を再び言ってみせた。
「しかしそれでもです」
「木に対することはできますね」
「先程の貴方のやり方を踏襲させてもらいます」
 高代は爽やかな笑みになった。その笑みで。
 右手に持っている剣を手首だけで軽く回してみせた。するとだ。
 その刀身から眩い星の光が無数に飛散った。その光がだ。
 高代の周りを漂いそのうえでだ。木の葉達にぶつかり消し去っていく。童子に光も消え去るがそれで相殺していた。広瀬の木の葉がそうした様に。
 木と光がぶつかり合う。その中で言う高代だった。
「この通りです」
「俺がしたことは貴方もできますか」
「それぞれの立場が逆になっただけですね」
「そうですね。それだけです」
「では」
 こう言ってだ。広瀬は。
 己の木の葉は全て高代の光に消されたのを見てからだ。剣を両手に構えて中段に構えた。そしてだった。
「この木怪剣はです」
「それがその七支刀の名前ですか」
「そうです」
「私の剣の名前は星光剣といいます」
 高代は右手に持つその剣を腹のところまであげて言った。
「いい名前ですね」
「そう思いますね」
「この剣は私自身でもあります」
「俺もそうですよ」
「その剣が貴方自身ですか」
「剣士ですから」
 それならばだというのだ。
「この剣は俺自身です」
「そうなりますか。では」
「はい、それではですね」
「あらためて闘いましょう」
 高代は剣を持ったまま広瀬に述べた。 
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