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戦国異伝

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第六十六話 漆塗りその十一


「甘いものはな」
「酒が飲めぬと甘いものを欲しがるものですな」
 今言ったのは佐久間だった。
「そういうものですな」
「そうじゃな。わしがそうだしな」 
 信長も佐久間のその言葉に応えて述べる。
「甘いものの方がよい」
「そういうものですな」
「とにかく酒は駄目じゃ」
 信長はまた言った。
「だから南蛮の菓子には興味がある。それにじゃ」
「それに?」
「それにといいますと」
「砂糖じゃ」
 甘いものとしてだ。これも挙げるのだった。
「砂糖もよいのう」
「あれですか」
「砂糖でございますか」
「そうじゃ。できればその砂糖をじゃ」
 信長の目が鋭くなる。そうして言うこととは。
「誰もが食せるようにこの国の中で作られればよいのう」
「砂糖を日之本の国の中で、ですか」
「この本朝において」
「そうじゃ。それができればよいのじゃがな」
 信長は鋭い顔で真剣に述べる。
「わし一人でいい思いをしても詰まらぬわ。小さなことじゃ」
「だから砂糖をですか」
「天下に広める為にも」
「塩と同じく砂糖も必要じゃ」
 塩の大事さは言うまでもない。しかし砂糖もだというのだ。
「それも広めたいのう」
「ううむ、それは果たしてできるのか」
「かなり困難だと思いますが」
「塩にしろですが」
「塩もじゃな。あれももっと作るとよい」
 塩の生産も増やせというのだ。
「無論民達に広める為じゃ」
「その為にも塩を」
「それもまたですか」
「そうじゃ。それに砂糖じゃ」
 また砂糖の話になる。
「甘いものといえば果物に小豆、それに水飴じゃがそれ以外にもじゃ」
「砂糖も加えて」
「そうされてですか」
「あれが手に入れば我が国はまた豊かになる」
 日之本の国自体がだというのだ。
「だからこそじゃ。少し考えてみるとしよう」
「砂糖。それもまた」
「この国で」
 信長の目指すものは多かった。それはただ国を豊かにするということではなくだ。そうした困難なものにもあえて目を向けてだ。国を見ているのだった。これからの天下を。


第六十六話   完


                    2011・11・14 
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