久遠の神話
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第二十九話 闇を払うものその一
久遠の神話
第二十九話 闇を払うもの
中田は暗闇の中にい続けている。そのうえで構えている。だが、だ。
対する権藤の姿は見えない。それでだった。
周囲を警戒しながらだ。こう言うのだった。
「目が見えない剣豪ってのは聞くけれどな」
「物語だな」
「ああ、そういう奴もいるからな」
時代劇ではだ。いるというのだ。
「片目片腕もいるけれどな」
「しかし目がないとか」
「こんなに困るとは思わなかったぜ」
この状況でもだ。中田は軽い口調だった。
「いや、大変なものだな」
「さっきも言ったが目はだ」
「戦いじゃ一番大事なものの一つだよな」
「まずは目だ」
権藤はまた言った。
「人は目で見てまず動く」
「そしてその次にだよな」
「耳だ」
次にそれだというのだ。
「それだけ目は重要なのだ」
「生きること自体にな」
「しかし君は今は目を失っている」
つまりだ。見えないというのだ。
「このことは非常に大きい」
「そしてあんたは見えている」
「このうえないハンデだ」
そうなっているとだ。権藤は言っていく。
「君は今その中にいるのだ」
「絶体絶命ってやつだな」
中田は今自分が置かれている状況を自分自身で言ってみせた。
「大変っていえば大変だよな」
「戦いを止めるか」
権藤が問うてきた。
「そうするか」
「降伏勧告かよ」
「そうだ」
まさにその通りだとだ。権藤も言ってきた。
「その通りだ。私とてだ」
「戦わずに済むのならいいっていうんだな」
「戦いは最後の手段だ」
権藤はこうも言った。
「止むを得ずする場合に限る」
「平和主義、じゃないよな」
「平和主義が常に正しいとは限らない」
闇の中でだ。こうも言った権藤だった。
「むしろだ。時としてだ」
「駄目だっていうんだな」
「それがさらに大きな災厄となる時がある」
例えば第二次世界大戦だ。イギリスもフランスも当初はドイツに対して融和路線、平和主義を取っていた。しかしそれがかえってドイツを増長させ世界大戦の一因となったのだ。
そのことを知っているからこそだ。権藤は言うのだった。
「だからだ。時としてはだ」
「戦うんだな」
「しかしそれでもだ。対話で済むのならばだ」
「それでいいっていうんだな」
「それに越したことはない」
権藤はまた言った。
「君が降伏し戦いから降りるのならばだ」
「何もしないっていうんだな」
「私は己の目的の為に戦う」
首相になり己の考える理想の日本を実現する為にだというのだ。
「しかしだ。その為に手段は選ばないがな」
「戦いは最後の手段か」
「その通りだ。ではだ」
「どうするかっていうんだな」
「降伏するのなら剣を捨てるのだ」
権藤は闇の中から中田に告げる。
「そうするのだ」
「降伏ねえ」
「何度も言うが私が戦うのは剣士だけだ」
権藤はこのことは絶対だと言う。
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