戦国異伝
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第六十六話 漆塗りその二
「それも召し上がりですな」
「そうじゃ。やはり甘いものはよい」
「兄上は昔からそちらですな」
「味は濃い方がよいが酒の肴より菓子とかの方が好きじゃ」
やはりこう言うのだった。信長自身も。
「それでは菓子も用意させてな」
「しかし兄上」
信行はいつもの真面目さで兄に問うた。
「菓子がなければその時はどうされますか」
「では果物を食らうまでじゃ」
「それをですか」
「そうじゃ。何かあるじゃろ」
「はい、多少は。それに菓子も小豆を使ったぼた餅なら」
「ではよい。ぼた餅も好きじゃ」
それもいいという信長だった。
「甘いからのう、あれも」
「さすれば。我等もまた」
「ご相伴させてもらいます」
「他の者も連れてまいれ」
ここでこうも言う信長だった。
「弟や妹達もな」
「そうして皆で、ですか」
「茶を飲み菓子を食うと」
「そうする。よいな」
強引だが寂しがりなところのある信長らしい言葉だった。
「それではじゃ」
「はい、それではすぐに他の者も呼びます」
「とりあえず呼べる者は全て」
こうしてだった。実際に多くの者が呼ばれてだった。信長と共に茶を飲み菓子を楽しむ。そしてその中でだ。信長は言ったのである。
「さて、茶はじゃ」
「この茶ですか」
「それがですか」
「うむ、今日の茶はまた格別じゃな」
その茶の味を味わっての言葉だった。そしてだ。
あらためてだ。こう言ったのである。
「何処の茶じゃ、これは」
「大和の茶です」
答えたのは信行だった。無論彼も飲んでいる。
「それでございます」
「そうか。大和のか」
「かの松永弾正のいる国です」
「大和は豊かな国じゃ」
信長はその大和についても述べた。
「百万石とさえ呼ばれておるからのう」
「やはりその大和もですか」
「当然じゃ、治める」
信長は大和も手中に収めるというのだった。
そしてそのことをだ。さらに詳しく話すのだった。
「尾張や美濃や伊勢だけで天下といえるか」
「いえ、それはとても」
「そうは言えませぬ」
すぐに信行と信広がそのことを否定してきた。
「天下の一部にしか過ぎませぬ」
「所詮は」
「そうじゃ。天下は広い」
尾張や美濃だけではないというのだ。
「大和もまたその中の一国じゃからな」
「だからこそですか」
「大和もまた」
「大和は豊かな国じゃ」
その大和の話をまたするのだった。
「色々と治めがいがありそうじゃな」
「だからこそですな」
「そうじゃ。やがてはな」
そんな話もするのだった。そうしてだ。
信長は大和も見ていた。だが西のその国だけではなくだ。
東のだ。その国も見ていた。兄弟を集めて茶を飲んだ次の日にだ。
平手と林にだ。あのことを問うていたのである。そのあのこととは。
「して武田とのことはどうなっておる」
「はい、順調です」
「武田殿から返事がありました」
平手と林はこう信長に答えてきた。
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