久遠の神話
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第二十八話 使い捨ての駒その十
「何かの写真で日本刀を右手に持って立っている人を斬ろうとしてる写真があったけれど」
「それはできるの?」
「まずできないね」
ほぼ不可能だというのだ。それはだ。
「両手に持って。しかも相手が座った状態でないと」
「とても」
所謂射ち首の状態だ。しかし首を斬るのも難しいのだ。
「無理だよ。しかも右手に持つなんてね」
「さっきのあの人みたいには」
「無理だよ。少なくとも日本の剣道じゃないよ」
「そうなのね」
「うん。とにかく斬るのは両手でないと難しいんだ」
日本刀の性質上だ。そうなることだった。
「けれど。力を使うのなら」
「二刀流の方が有利なのね」
「だから中田さんは強いんだ」
剣士としてだ。そうだというのだ。
「刀が二本あるからね」
「それだけ力が使えるからこそ」
「その筈なんだ。けれど」
「権藤さんは」
「うん、一本の刀で全部受けているよ」
闇の力を持つだ。その大振りの日本刀でだというのだ。
「それだけでも凄いよ。あの人は本当に強いよ」
「そうなのね」
「うん。それに多分だけれど」
「多分?」
「あの人は守るだけの人じゃないね」
これは権藤の性格を見ての言葉だった。
「それだけじゃないよ」
「というと」
「仕掛けるよ」
そうしてくるというのだ。
「やがてはね」
「やがては」
「今は待っているんだ」
権藤はだ。そうしているというのだ。
「その時をね」
「じゃあ中田さんは」
「中田さんもわかっていると思うよ」
権藤がだ。そうしてくるということをだというのだ。
「そのこともね。けれどね」
「けれど?」
「わかってはいてもね」
だが、だ。それでもだというのだ。
「それにどう対応するのかは別の問題だから」
「対応するのは」
「頭ではわかっていても」
本当にだ。そうなっていてもだというのだ。
「それで動けるかどうかは」
「そうよね。スポーツでもそうよね」
「それを察してわかることも難しいんだ」
最初の段階のだ。それすらもだというのだ。
「そしてそれに対応するのはね」
「さらに難しいのね」
「だから。中田さん大丈夫かな」
上城は心から心配する顔で中田を見て言った。
「あの人と闘っていて。防げるのかな」
「若し防げなかったら」
「危ないよ」
一言でだ。そうだというのだ、
「本当に命の危険さえあるから」
「命の」
「剣士の闘いは命を賭けて行うもの」
このことは上城が最もよくわかっていることだった。彼もまた剣士だからだ。剣士は命を賭けて戦い最後の一人になる、そうした存在であるからだ。
それ故にこう言って中田と権藤の闘いを樹里に述べる。
「中田さんもあの権藤さんも。そして」
「上城君もなのね」
「そうだよ。僕もね」
他ならぬだ。彼もだった。
「そうなんだよ。剣士は」
「それが剣士・・・・・・」
「そういうものなんだね」
ここではだ。上城は自分に言い聞かせた。そうしながらだ。二人の死闘を見続けていた。やがて中田の突きが減ってきた。それを見てすぐにだ。
権藤はそれまで防いでいたのを止めてだ。剣を下から上に大きく振った。
剣には闇が込められていた。それで斬ろうというのだ。
だがその下からの一撃はだ。中田は後ろに跳んでかわした。そしてそこにだ。
権藤の次々に来た。上から下、左から右、右斜め下から左斜め上、最後には突きだった。彼は前に進みながら次々に攻撃を繰り出したのだ。
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