戦国異伝
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第六十四話 焼きものその十一
「あの者もそうした左道の類は好まぬ」
「あの方は禅宗の高僧でもあられますから」
「だからこそ」
「では今川でもない」
その可能性も消えたのだった。今川もだ。
「ではまことに何者じゃ」
「妖術の類を使いそうな者となると」
明智は自然とだ。眉を曇らせて述べた。
「そうですな。大和、信貴山の」
「あ奴か」
「はい、松永久秀です」
その者位だというのだ。
「それがしが思いつくのは」
「あ奴も出自がわからぬな」
義輝は松永についても述べた。
「それも何一つとしてな」
「しかも手を選びませぬ」
「まさに蠍です」
明智と細川以外の幕臣達も言うのだった。
「そうした者ならばやはり」
「妖の者を使っても不思議ではありませぬが」
「果たしてどうかじゃな」
義輝は言う。
「だがその頃の織田は尾張一国に過ぎぬ。大和まではとても手が届かぬ」
「ですからあれは松永の手の者でもないでしょう」
明智はここでは現実的に考えて述べていた。
「間違いなく」
「そうじゃな。あ奴でもない」
「ですから余計にわかりませぬ」
「何者か気になる。しかしじゃ」
ここまで話してだった。義輝はやはりこう言うのだった。
「わしは間も無くこの世を去る。それはもう決めた」
「わかりました。それでは」
「後のことは頼むぞ」
微笑さえ浮かべてだ。明智達に告げた言葉だった。
「よいな。天下のことをな」
「幕府ではなくですか」
「天下ですか」
「幕府はなくとも天下はある」
こうも言うのであった。
「ならば天下の為に動いてくれ」
「わかりました。そのことも」
細川が応える。
「では今より我等は」
「己の信じる道を進め。よいな」
「はい、それでは」
「今より」
「闇があってもじゃ」
日食はまだ続いていた。義輝はその中で話す。
「それは必ず終わる」
「むっ、そういえばこの日食も」
「少しずつですが」
空を見ればそうだった。日食が終わってきていた。
そうして青天が戻ってきていた。その青い空と白日を見てだ。
義輝はだ。再び言うのだった。
「こうなる。闇は永遠のものではない」
こう言ってだった。彼は己の運命も受け入れてだ。そのうえで都に残るというのだった。その決意は青天の下でさらに強いものになっていた。
第六十四話 完
2011・11・1
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