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木の葉芽吹きて大樹為す

作者:半月
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青葉時代・襲撃編<後編>

 
前書き
一文字携帯変換できない漢字があります。 

 
「扉間! 九尾はお前達に任せる! オレはこいつの相手をする!!」
「しかし、兄上! 兄上の方が九尾の相手をした方が……!」
「九尾は見た感じマダラに操られている! 今の九尾には知性の欠片も無い、ただ暴れ回っているだけだ!!」

 頸動脈を掻き切ろうと振るわれる鎌の一撃一撃を躱しながら、背後にいる扉間に対して叫ぶ。
 本来ならば私が九喇嘛を相手にして、マダラの相手を他の忍び――例えば扉間にでも任せるのが一番だろうが、今の九喇嘛は写輪眼によって催眠を掛けられているだけの荒れ狂う暴風の様なものだ。

 理性と意識を保っていない分、策を巡らせれば落とせなくもないだろう。
 だがそのためには一先ずマダラを九喇嘛から引離さなければならない。

「はっ! 随分と余裕ではないか、千手柱間!! この状態を前に、よくぞそのように嘯けるものだ!」
「任せたぞ!」

 唸る様なマダラの声に応対する事無く、背後の扉間を含んだ忍び達へと叫ぶ。
 大丈夫、大丈夫だ。彼らは強い、私はとにかく目の前の相手に集中するだけだ。

 揺らめく炎を映した様な、赤い写輪眼。
 万華鏡を発動こそしているものの、九尾へのコントロールに瞳力の大半を使用しているのだろうから、須佐能乎を始めとする万華鏡特有の能力を使う事は出来なさそうだ。
 となれば、使用出来る万華鏡の能力は通常の写輪眼の基礎能力を向上させたもの……と考えていい。
 催眠眼としての能力は九喇嘛に大半を使用しているから無理そうだし、幻術眼を私に掛けるだけの余裕は与えなければいい。
 そう判断して、私は手にした刀を鞘に納めて拳を固く握りしめた。

 ――ひとまず、マダラと九喇嘛を引離さなければ。

*****

 周囲には互いがぶつけ合った飛び道具を始めとする武具の数々が散らばり、先程までの乱闘の痕跡を色濃く残している。
 それらの武器に囲まれた状態で、私達は互いから目を離す事無く、向かい合っていた。

「――っはぁ、はぁ」
「っく! 相も変わらずの……馬鹿力だな」

 これだけ里から引離せば大丈夫だろう。
 私はマダラを里から追い出す事を念頭に、自分の身が傷つく事を後回しにした。
 高い再生能力と自己治癒能力があってこその、他の忍びがすればまず間違いなく自殺行為と呼ばれるだけの行いをした甲斐はあって、無事に里を囲む森にまで奴を追い出す事に成功したと言っていい。

 ちらり、と里の方を見れば、夜目にも煙が上がっているのが分かる。
 けれど九尾の巨体が金に輝く鎖に抑え付けられている光景を目にして、なんとかあちらも上手くいっているようだと安堵した。
 ミトや扉間が頑張ってくれたお蔭だろう。本当に助かった。

 雄叫びを上げて襲いかかって来たマダラの一撃を刀で受け止め、腕にチャクラを込めて瞬時の怪力を発揮して放り飛ばす。
 そのまま振り切った私の勢いに逆らう事無く、マダラは遠くに着地すると手にした団扇を背に直し、印を組む。
 その姿から目を離す事無く、私も木遁の印を組んだ。

「――口寄せの術! 来い、九尾!!」
「――木遁・樹界降誕!」

 地面に押し付けられたマダラの手を中心に放射状の術式が刻まれたのと同時に、私の足下より無数の木々が生え出して来る。
 口寄せの煙が濛々と立ち込めた中で輝く鮮血の瞳が見えて、自然と顔が険しくなった。

 一際高い咆哮が上がり、朱金色の輝く毛並みと三つ巴紋の浮かぶ鮮血の双眸が夜空に輝く。

「――……九尾と契約を結んだのか」
「ああ、そうだ。――やれ、九尾!!」
『グウオオォォォ!!』

 月に向かって大きく咆哮を上げて、襲いかかって来る九喇嘛。
 叫び声一つにも尋常でない量の衝撃が込められている。

 マダラと九喇嘛かぁ……にしても最悪過ぎるよ、この組み合わせ。
 冷や汗が頬を伝うが、敢えて平気な表情を浮かべてみせた。

*****

「マダラ! 何故、こんな馬鹿な真似をした!?」

 迫ってくるマダラへと手裏剣を投げながら、そう叫ぶ。
 追放されたとはいえ仮にも頭領がこんな真似をすれば、勝っても負けてもうちはの一族が今後肩身の狭い思いをするのは確実だ。

「答えろ、この大戯け!!」
「――黙れ!!」

 怒りと憎しみに満ちた赤い瞳で私を睨みながら、マダラが吠える。
 ギラギラとした赤い目は私から逸らされる事無く、激情に支配されて物騒に輝いていた。

「うちはと千手は所詮、水と油! どれだけ貴様が心を砕こうが、相容れる事など断じてない!!」
「オレにそんなつもりは――ないっ!」

 分かり合う事を望んでいた。分かり合えると思っていた。 
 元は一つの仙人からなる血筋。
 兄弟として、仲間として、同士として。――このまま過ごせると思っていたし、そうするつもりだった。

 九喇嘛の足に太い幹が幾重にも絡み付く。
 自らの動きを止めようとする木々に苛立ったのだろう、九喇嘛が一際大きく息を吸うとその胸元が大きく膨らむ。

『――――カッ!!』

 音の暴力と言うか、声の砲撃。
 叩き付けられた咆哮の一撃に、それまで縦横無尽に蔓延っていた木遁の森が薙ぎ払われるだけでなく、地面すら抉られる。

 鼓膜を通り越して直に脳に叩き付けられそうな衝撃に、思わず顔が引き攣る。
 こんなの直接人体に受けでもしたら、まず間違いなく内蔵ごとズタズタにされてしまう。

 背負っていた巨大な巻物の紐を解き、勢い良く開いた。
 出し惜しみなどしていられる様な相手じゃない。
 九喇嘛を傷つける様な真似をするのは不本意だが、そんな事言っていれば間違いなく待ち受けるのは私の死――ひいては里の壊滅だ。

「――武具口寄せの術!」

 僅かに残った木々に働きかけて、九喇嘛とマダラへの足止めに使えば相手の動きが止まる。
 その短い間でも、口寄せした武器が現界するには充分だ。

 幅広の刀を一本引き抜き、そのまま迫って来るマダラの鎌と打ち合わせる。
 火花を何度も散らしながら、堪え切れない激情を暴露する様にマダラが叫んだ。

「木の葉の主権は貴様を始めとする千手の手に落ちた! 次の火影も、千手から選出される! ――違うか!?」
「どうしてそんな風にしか思えないんだ!」

 相手の頭から決め付ける様な言い草に手裏剣に怒りを込めて投擲するが、巨大な団扇が手裏剣の前に出され、それらを弾き飛ばす。
 私の放った手裏剣が私の方へと返されてくる前に木の幹を使って盾として使い、そのまま背後に宙返りして距離を取った。

「千手もうちはも関係無い、オレ達は木の葉の忍びだろうが!!」

 荒れ狂う九喇嘛の爪の一撃を跳んで回避し、追撃してくるマダラの鎌と刀を打ち合わせながら叫べば、その声を掻き消す様に九喇嘛が吠える。
 衝撃波と化した音の砲撃が私達が戦っている場所にまで押し寄せてきたため、避けるために双方とも距離を取った。

 相手が離れた瞬間に、チャクラを練って更に周囲へと働きかける。
 以前披露した、木遁を使っての武具使用。
 人の手では持てない巨大な武器も、木々の手を使用すれば強力無比な一撃を発揮する事が可能になる。

 空を切って回転する巨大手裏剣を、マダラが団扇で弾き飛ばす。
 弧を描きながら返って来たそれを再度幹の腕で捕まえて、構える暇を与えない内に投擲する。

 そのまま続け様に木々を操りながら、追撃を開始。
 マダラの持つ鎌と団扇が無数の武具を時には受け流し、時には薙ぎ払いながら私の攻撃をいなすが、流石に多勢に無勢。
 鎧越しとはいえ、相手の肩へと私の操る武具の一つが激突する。少なくとも、これで骨に皹は入った筈だ。

「千手もうちはも関係ない? どこまでもおめでたい奴だな、貴様は!!」

 嘲笑する様にマダラが引き攣った笑い声を上げ、九喇嘛へと万華鏡を向ける。
 一際荒々しい唸り声を九喇嘛が上げたと思うと、そのまま喉元を大きく逸らす。
 そうすれば、白と黒のチャクラが九喇嘛の鼻先へと集っていく。

 高速で回転する黒く丸い球体が出来上がったかと思うと、それを九喇嘛が飲み込んだ。

「――――やれ、九尾!」

 マダラが九喇嘛の頭へと飛び移る。
 九喇嘛の口元が大きく開き、兇悪に輝く歯の奥から赤黒い光を纏った黒い球体がこちらへと発射されたのを目にした途端、普段の倍以上の木錠壁を展開した。

 視界が茶色の壁に覆われるが、その隙間からは赤黒い光が染み出る。
 みしみし、と嫌な音を立てる木錠壁。
 頼むから持ちこたえてくれよと願いはするが、正面から受け止めるだけでは遅かれ早かれ力負けするのは必至。ならば……!

 木錠壁の防御の手段を真正面から受け止めるのではなく、背後へと受け流すものへと変化させる。
 そのまま攻撃を受け流し威力を少し弱めて、トランポリンの要領で遠くへと弾き飛ばそうと画策する。

 ――よし、上手くいった様だ。

 高速で回転しながら木の壁を砕こうとしていた高密度のチャクラの塊は、そのまま木錠壁を滑る様にして、背後へと、私が背にしていた崖の方へと弾き飛ばされた。

 土砂が崩れる音と遠くで水飛沫が上がった音を耳にしながら同時に印を組んで、九喇嘛の真下に何十本もの木々を生み出して一気に拘束する。
 体中を締め上げられた九喇嘛が苦悶の声を上げた。

 ……ごめん、九喇嘛。

 そのまま跳躍して、九喇嘛へと距離を詰める。
 全身を拘束する木遁を一声と共に砕いて、こちらを射すくめた九喇嘛の眼差しから目を逸らさずに、そのまま右手を朱金色の毛皮へと押し付けた。

「――火影式耳順術 廓庵入鄽垂手!」

 これは七尾と対峙して以来、ミトと共に作り上げた私独自の封印術。
 ミトの扱ううずまき一族の物とは違って、直接尾獣の体に触れる事で相手のチャクラを引き出して、特殊な木遁の柱にて拘束するという代物。

 ……使うのは初めてだけど、なんとか上手くいったな。流石私、本番に強いや。

 自画自賛して、必死に自分を鼓舞する。
 取り敢えずこの最悪コンビを解消させないと、このままじゃ確実に死ぬ。

 棘の生えた木遁の柱が、九喇嘛の巨体を覆って行く。
 九本の尾は花が花弁を閉ざす様に、九喇嘛の体を包んだ。

「少し、そこで眠っててくれ。――っと!」
「させるか!!」

 鎌を大きく振りかぶって来るマダラ。
 それを見据えたまま片手印を組んで腕を樹木へと変化させ、マダラの四肢を締め上げる。

「大樹林の術、解!」
「何を……! ――ぐっ!?」

 締め上げたまま近くまで引き寄せ、咄嗟には空中で身動きが取れない事を見越して、大樹林の術を解く。
 目を見張ったマダラの腹に手を押し当て、叫んだ。

「――契約封印の術! これでお前は九尾を操れない!!」
「柱間、貴様ぁ……!」

 怒りと殺意に満ちた赤い瞳。

 ――さぁ、これからが正念場だ。 
 

 
後書き
ここらへんの戦闘シーンの参考はNARUTOゲーム最新作の「うちはマダラ伝」です。

ふと考えてみる。
原作のナルトはサスケの事を友達だからといって何とかして彼の暴走を止めようとしていますが、そういった絆を持てないこの二人の場合だと(追いかける側のマダラからしてみれば)敵対するしか繋がりを守る方法はなかったんじゃないか、と思いました。 
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