久遠の神話
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第二十七話 愚劣な駒その五
「艦内での生活を想定して訓練される」
「ううん、そうなんですか」
「そういうことだ。だから甲板という役職もある」
「甲板?」
「生活全般の監督及び手配の担当だ」
要するに雑務の総括である。
「それを受け持つ役職もその呼び名になる」
「陸の基地でもですか」
「そうだ。艦内を想定しているからな」
「だからですか」
「そしてその甲板だが」
さらに話す工藤だった。その海独特の用語について。
「甲板士官というものもある」
「甲板士官?」
「そうだ。新米士官が任命されてだ」
「そうした生活全般の監督とかを受け持つんですね」
「俺もなったことがある」
ここで工藤は笑った。そして言ったのだった。
「とりあえずだが」
「はい?」
「食べよう」
まだ三人共スプーンを動かしていない。だから工藤は話の合間にこう言ってきたのだ。
「そうしよう」
「あっ、そうですね」
「食べに来たというのに食べないのもまたおかしい」
「ですね。それじゃあ」
「この海上自衛隊のカレーを」
聡美も言ってきた。そしてだった。三人でいただきますをしてだ。
その盆の中のカレーを食べた。そうしながらだ。工藤は甲板士官についてまた話したのだった。
「俺も幹部候補生の教育を終えて航海訓練を経てだ」
「それからですか」
「幹部として配属されたはじめての船でだ」
「その甲板士官になったんですか」
「そうして働いていた」
そうしていた経験があるというのだ。
「中々大変だった。しかしだ」
「しかし?」
「いい勉強になった」
自衛官としてだと。こう言ったのである。
「実にな」
「そうなんですか。大変だからですか」
「いい勉強になった」
工藤は微笑んだままで言う。
「実にな」
「ううん、海上自衛隊独特ですね」
「当然だと思うが警察にはないな」
「ないですね」
スプーンを動かしながらだ。高橋は答えた。
「そうしたのは」
「似ている組織だがな。自衛隊と警察は」
「似ていますが違う部分は多いですね」
「特に海上自衛隊とはな」
「はい、かなり」
「陸さんの方が似ているか」
工藤はそちらの自衛隊を話に出した。
「やはりな」
「ええ、俺もそう思います」
「そうだな。どうしてもな」
「海だとあれですね」
高橋が話に出したのは彼等だった。
「海上保安庁ですね」
「あそこか」
工藤の顔がここで曇った。
「保安庁か」
「保安庁の方が似ていますよね」
「そうかもな。しかしな」
「しかし?」
「海上保安庁が好きな海上自衛官はいない」
工藤はこう言った。
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