久遠の神話
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第二十七話 愚劣な駒その四
「今からな」
「はい、それでは」
「行きましょうか」
聡美だけでなく高橋も応えた。こうしてだった。
二人はその自衛艦、内部もグレーに塗装された鉄の船の中に入った。そして例え艦が揺れても問題ない様に固定されたテーブルに工夫された席に座ってだ。そうしてだ。
カレーを、他の案内された市民達と共に入ってだ。そしてだ。
銀のアルミ製のそれぞれ区分された四角い盆の中に入った白いドレッシングがかけられたレタスにトマトに玉葱のサラダとゆで卵にデザートの苺、それにだ。
メインであるカレーを見た。そうしたものを前にしてだ。
高橋は目をしばたかせてだ。こう工藤に問うた。
「何ていいますかね」
「この盆のことか」
「やっぱりあれですよね」
「船は揺れるものだ」
「はい、だからですか」
「揺れても問題ない様にだ」
「料理が出ない様に」
高橋は言った。
「それにですね」
「そうだ。一つだから洗いやすい」
「それでこんな一つになった盆なんですね」
「食器になっている」
「ううん、これも工夫なんですね」
「船だけだがな」
自衛隊の中でもだ。艦艇だけがこの盆だというのだ。
「こうなっている」
「そうなんですか」
「変わっているな」
「変わっているっていいますか」
「ああ、海自だけだからな」
その海上自衛官の工藤の言葉だ。
「陸自さんや空自さんにはないからな」
「船がないからですね」
「そうだ。あくまでうちだけだ」
即ちだ。海だけだというのだ。
「他の海軍もそうだろうがな」
「そういえば海自ってかなり独特ですよね」
そのカレーを見ながらだ。高橋は言ってきた。
「敬礼にしても」
「肘を畳んだあれだな」
「はい、警察の敬礼と全然違いますよね」
「警察の敬礼は陸さんのだ」
陸上自衛隊のものだというのだ。
「うちのじゃない」
「ですよね。陸自さんのですよね」
「空自さんもそうだがな」
「ああ、航空自衛隊もですか」
「そうだ。基地にいるからな」
「基地だからですか」
「うちは船だ」
これが重要だった。海ならばだ。
「艦内は狭い。だからだ」
「その狭い船の中で陸自さんの敬礼をしたら」
「場所が足りない」
限られた空間の中ではだ。陸の敬礼はできないというのだ。
「だからだ。海の敬礼はだ」
「ああした肘を折ったものですか」
「そうなった」
「そうだったんですか」
「海は船で戦う」
このことには変わりがなかった。古代からだ。
「だから何もかもが船が基本になる」
「成程、だから敬礼もですか」
「教育隊でも同じだ」
「教育隊というと自衛隊の新兵教育の」
「そうだ、それもだ」
「やっぱり。艦内にいる感じで」
高橋が言うとだ。工藤は頷いてこう言った。
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