木の葉芽吹きて大樹為す
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青葉時代・追憶編
うちはマダラが一族からも、木の葉の里からも姿を消してから数ヶ月。
ヒカクさんを始めとするうちはの人達は木の葉の人達の質問にも答える事なく、ただ頑にマダラがうちはから去ったとだけ言い続けた。
しかし、マダラが出奔した直後に、やけに青ざめた顔のうちはの人達が朝早くに火影邸を訪れて、私に向かって殆ど床に頭を擦り付ける様に謝罪をして来た事から、事がそれほど単純でない事は明白。
おそらくマダラが何かうちはの人達の意に添わぬ事を実行しようとして、失敗したのだろうと推測出来る。
でなければあれほど一族に身を捧げて来た男が一族を捨てる様な真似をする訳が無い。
マダラの出奔が意味する事は則ち――マダラがうちはを捨てたのではなく、うちはの人達がマダラを捨てたのだろう。
「……と、オレは思うのだが、そこんとこがどうなのか教えてもらえるかね、ヒカクさん」
「流石、ですね……火影様。あの方が一目置かざるを得なかっただけある……推測通りですよ」
ずっと沈黙を貫いていたヒカクさんが、肩を落としたままの姿で泣き笑いの表情を浮かべる。
元々責任感も強く、マダラを人一倍尊敬し続けた彼までもがマダラに付いていけなくなる様な事をあいつは言ったのか……そうすると。
「今のままではうちはの未来は無い……そこまで追いつめたんだろうな」
「お察しの通り。極々内密の話ですが……出奔される前から、あの方はうちはが千手の下に置かれる様にも見える現状を憂いておられた。このままでは、誇り高きうちは一族は千手の犬へと成り下がってしまう……それがここ最近のあの方の口癖でした」
何とも言えない顔になった私を見つめて、ヒカクさんが首を振る。
「勿論、火影様にそのような意思が無い事はうちはの誰もが知っています。マダラ様の仰られている事は杞憂に過ぎず……寧ろ」
「――続けてくれ」
口を閉ざそうとしていた彼に強い口調で先を促せば、蚊の鳴く様な声が零れ落ちた。
「戦に疲れて、木の葉での平穏な日々を享受して来たうちはの者達に取っては……あの方の御言葉は御自身が実権を握りたいがための我欲に塗れた言葉にしか思えませんでした。あの方は力を求めて御自身の弟の目までを奪う欲深い男だと言う意見が主流になり……おそらくそれで」
「――……あの馬鹿野郎め」
ここに居るのは私とヒカクさんの二人だけだ。
扉間を初めに、ここには誰にも近付かない様に言ってある。
もし彼らにヒカクさんを通したマダラの言葉が伝われば、里の中のうちはの地位は危うい物へとなりかねない。
それだけうちはの人達には力がある。
彼らが表立って反旗を翻しでもしたら、簡単に里が崩れかねないくらいには。
マダラも分かっていなかった筈が無い。
それでもそうせざるを得なかったと言う事は、それだけあいつが――……。
「やっぱり、憎まれていたのか。残念だ、オレは結構あいつの事が好きになって来ていたんだが」
「ほ、火影様!?」
椅子に深々と腰を下ろしつつそう呟けば、ヒカクさんが目を剥いている。
私自身マダラ自体に憎しみを感じなかった分、最初の苦手意識が失せてくれば親しみ易い相手となっていただけあって、今回のマダラ出奔には正直無念さを感じ得ない。
「ここだけの話だが……聞いてくれるか?」
「ええ。何なりと」
泣き笑いの顔のヒカクさんに、こっそりと内緒話をする様に耳打ちする。
里の皆から選ばれての初代火影の地位。
それは皆に私が認められた様な証であって、正直凄く嬉しかったのだけれども、私は火影になる前からの目的を諦めるつもりは無かった。
「実はね……オレはそう遠くないうちに火影の地位を扉間か……マダラの奴に継いでもらうつもりだったんだ」
「……!」
「オレの後を引き継いでくれそうな忍びは、二人を置いて他にいないと思っていたしな」
「火影、様……」
歯を食いしばるヒカクさん。
黒い目が潤み出して、涙が流れ出す一歩手前で彼は目元を覆う。
「取り敢えず、あの馬鹿がいつ帰って来ても困らない様に、居場所だけは準備してあげないと。あいつだって木の葉の仲間なんだからさ」
「ありがとう、ありがとうございます……!」
軽く笑って肩を叩けば、感極まった様にヒカクさんが嗚咽混じりの感謝の言葉を告げて来る。
あいつがいなくなったせいで、こっちは物凄く大変だったんだからな。
帰って来たら、盛大に文句を言って仕事の山を押し付けてやらないと。
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