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戦国異伝

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第六十三話 岐阜その七


「おそらく。宗滴殿はじゃ」
「あの御老人にあったのですか、理由は」
「あれじゃ。己の死が近いと思ってじゃ」
 それでだというのだ。
「あの者に去らせたのじゃろうな」
「しかしあの御老人はまだ健在です」
「今も尚」
「人は何時か必ず死ぬ」
 信長の座右の銘の一つでもある。生ある者が必ず死ぬというのは。
「しかしその死ぬ時はじゃ」
「それはですか」
「わからぬというのですね」
「それは誰にもわからぬ」
 実際にこう答える信長だった。
「どうしてもな」
「あの御老人も御自身の死期を見誤った」
「左様ですか」
「人は何時か死ぬがそれが何時なのかは誰にもわからぬ」
 自分自身でもだというのだ。
「それでなのじゃ」
「霧隠を去らせてしまった」
「死期を見誤り」
「そういうことじゃ。しかしそれでもじゃ」
 ここでこうも言う信長だった。
「あの者は真田に仕える運命だったのだろうな」
「十勇士の一人になるですか」
「そうした運命でしたか」
「そうじゃ」
 実際にそう思う信長だった。
「真田もまた。大きな者だからのう」
「主の武田信玄と同じくですか」
「大器ですか」
「天下を望まぬにしても天下屈指の漢じゃ」
「漢、ですか」
「あの者は」
「うむ、漢じゃ」
 また言う信長だった。
「まさにな」
「人はその集るべきところに集りますか」
 今言ったのは竹中だった。
「左様ですな」
「腐ったものには蝿が寄る」
 信長の口調がここで変わった。すしてだ。
 こう言いだ。そのうえで。
「花には蝶が寄るのじゃ」
「花にはですか」
「蝶ですか」
「そうじゃ。蝶じゃ」
 信長は言うのだった。
「そういうことじゃ」
「では我等は蝶だと」
「そう仰るのでしょうか」
「ははは、わしは花ではないぞ」
 家臣達が自分達を蝶と呼んだのを受けてだ。信長は述べた。
「それどころか厄介な者じゃ。さしづめじゃ」
「何だと言われるのでしょうか」
「花でなければ」
「そう言われても思い浮かばん。うつけだの蛟龍だと言われてきたがな」
「では殿はこれから龍になりますので」
 蛟は龍になる。今言ったのは林の弟だった。
「我等は小龍でしょうか」
「わしを大龍としてか」
「はい、龍王はl宮殿を設けていますが」
「四海をそれぞれ治める龍王じゃな」
 東海、南海、北海、西海だ。それぞれを治める龍王達は兄弟なのだ。林通具はこうも述べる。 
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