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戦国異伝

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第六十三話 岐阜その六


「そう聞いております」
「真田十勇士は一人一人が一騎当千と聞くが」
「主の真田幸村と同じく」
「そうした者達か」
「御会いになられますか?」
「興味が湧いてきた」
 信長の好奇心は人にも向けられる。それもよくだ。それでなのだった。
「その者達にも文を送れればよいが」
「ですが、です」
 ここで言ったのは蜂須賀だった。
「それがしもあの者達については聞いてますが」
「どうなのじゃ、一体」
「あの者達はどうやら仕えている主がおりませぬ」
「三木に仕えているのではないのか」
「はい、そのことは間違いありません」
 そうだというのだ。
「今のところ主はない様です」
「ふむ。そこも十勇士と似ておるか」
 信長はここで己の言葉に疑問符をつけた。
「その辺りもな」
「そういえばあの者達は」
 中川が考える顔になって言う。
「真田に仕えるまではそれぞれ浪人の様なものだったとか」
「主のおらぬ忍だからのう」
 武士でいえばそうなるのだった。浪人だとだ。
「そうなるじゃろうな」
「それだったのですな」
「うむ。霧隠というのは朝倉家におったそうじゃがな」
「しかし朝倉を離れてですか」
「真田に入ったのですか」
「つまり武田に」
「朝倉はじゃ」
 信長は朝倉について話す時はだ。嫌悪を見せた。織田と朝倉の仲は昔から悪い。斯波氏の家臣だったが織田の方が格が下だったのだ。
 それで織田は朝倉に対抗心がありだ。朝倉は朝倉で織田を馬鹿にしていた。その関係でだ。両家は今もだ。仲が悪いのである。
 それは主である信長にとりわけ出ていてだ。それで言うのである。
「朝倉宗滴殿あってじゃ」
「あの御老人でもっておりますな」
「政も戦も」
「主はあの通りじゃ」
 朝倉義景のことだ。
「凡庸、いや」
「あの御仁は暗愚かと」
 家臣達も嫌悪を見せて言う。
「とにかく都の遊びにばかり溺れて政も戦も省みないとか」
「そして酒を飲んでばかりとか」
「そうした御仁が主とは朝倉も大変ですな」
「いや、全く」
 果てには悪意さえ見せる彼等だった。
「しかしあの御老人がいるからですな」
「朝倉、そして越前はもっておりますな」
「あの御仁にはわしもかなわん」
 信長もだ。難しい顔でこう言う。
「年の功じゃ」
「それによってですか」
「勝てるものではないと仰るのですか」
「ただ無駄に歳を取っておるだけではないしのう」
 その朝倉宗滴はというのだ。
「そうした御仁には中々勝てぬ」
「だからですか」
「越前には殿も一目置かれますか」
「宗滴殿がおられるからこそ」
「おそらく。霧隠は宗滴殿に言われて朝倉を去ったのじゃろう」
 信長はそう見ていた。そしてそれはその通りだった。 
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