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久遠の神話

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第二十六話 壬本という駒その二


「私は日本の首相になる男だ。しかしだ」
「何の役にも立たない輩は日本には不要ですね」
「不要な駒は使い潰して終わりにする」
 またこう言ったのだった。
「そうするからな」
「それが日本の為になりますね」
「不要な人材もいる」
 そのだ。壬本の如くだというのだ。
「そうした人材でも少しでも役立てるならだ」
「駒ですか」
「そうして使い捨てにするだけだ」
「左様ですか」
「そうだ。そしてだ」
 ハンバーグを食べつつだ。権藤は今度はこう言った。
「このハンバーグだが」
「味がよくないでしょうか」
「いや、実に美味い」
 味の問題ではなかった。ここで言うのは。
「とてもな。いつも通りシェフ脳では流石だ」
「では一体」
「ハンバーグはビスマルクの好物だった」
 プロイセン、ドイツ帝国の宰相である。鉄血宰相としてだ。ドイツの舵を取っていた人物だ。
「あの彼のな」
「ビスマルクですか」
「ビスマルクはドイツの為にあらゆることをしてきた」
「時として謀略もですね」
「そうだ。手段を選ばないと言えるがだ」
 だがそれがだとだ。権藤は言うのである。
「しかしそれでもだ」
「それがドイツの為になっていましたね」
「だからいいのだ。政治家は国家の為にはだ」
「時として手段を選ばないこともですね」
「いいのだ」
 それもまた、というのだ。
「だから私はあの男は駒にする」
「使い捨ての」
「所詮はだ。そうするのだ」
 こう言ったのである。
「奴は気付いていないがな」
「気付かないというのも愚かですね」
「実にな。そうした者だから駒にするのだからな」
「そうですね。では」
「後で私も出るかもな。だが」
「だが?」
「話を変える」
 そうするとだ。やはりハンバーグを食べながら言ったのだった。
「このハンバーグだが」
「美味でありですね」
「ビスマルクの好物だった。だが我が国ではだ」
「鉄血宰相の好物というイメージはありませんね」
「むしろだな」
「はい。子供の好物です」  
 日本ではどうしてもそうしたイメージになっている。それはお子様ランチや給食のせいだ。そのことをだ。執事は己の主に一言で述べたのである。
「ですが実はですか」
「そうだ。そうした一面もあるのだ」
「そのことを考えるとハンバーグも」
「今こうして私が食べてもいいのだ」
「宰相になろうという方でも」
「子供が食べるものでもあり私が食べるものでもある」
 ハンバーグについてこう述べる。
「それがハンバーグなのだ」
「左様ですか」
「美味かった」 
 食べ終えた。そのハンバーグをだ。
 そしてすぐに今度はパンが前に出された。そのパンを食べてだ。権藤は今度はこう言った。
「パンはだ」
「パンはといいますと」
「我が国のパンが最もいいな」
「欧州等のパンではなくですね」
「そうだ。我が国のパンがいい」
 最もだ。そうだというのだ。
「味も口ざわりもな」
「パンも我が国のものがいい」
「欧州のパンは日本人の口には合わない」
「本場のものであっても」
「そうだ。合わないのだ」
 そうだというのだ。食べながらの言葉である。 
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