戦国異伝
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第六十一話 稲葉山入城その十
そしてその彼にだ。周囲が言うのだった。
「そうです。必ずやです」
「美濃を織田から奪い返しましょう」
「何としても」
「その通りじゃ。それでだが」
家臣達の言葉を受けていささか気を取り直してからだ。龍興はその家臣達に問うた。
「まずは何処に行くつもりじゃ」
「はい、三好です」
「あの家を頼りましょう」
「その為にまずはここを越えてです」
「都に入りましょう」
「わかった」
そう言われてだ。頷く龍興だった。
そうしてだ。彼はこうも述べたのだった。
「そして三好殿の下で力を蓄え」
「織田に攻め込み美濃を奪い返しましょう」
「是非共」
「わしはまだ生きている」
龍興はぽつりと呟いた。
「生きておればか」
「はい、まだ戦えます」
「機会は幾らでもあります」
「ですから」
「そうじゃな。生きておればまた美濃を奪い返すことができる」
龍興はようやくその顔をあげた。今のはそのうえでの言葉だった。
「ならばじゃな」
「はい、ではまずはここを落ち延び」
「そうして何処かの大名のところに身を寄せましょう」
「ならば何処がよいのか」
少しだけ気を取り直してだ。龍興は家臣達に尋ねた。
「織田と戦えるその家は」
「三好かと」
家臣の一人が述べた。
「あの家はどうでしょうか」
「三好か」
三好と聞いてだ。龍興はだ。
少し考える顔になってだ。こんなことを言った。
「確かあの家は今は」
「はい、主である三好長慶が今にもこの世を去りです」
「内輪もめがはじまろうとしています」
「そうじゃな。三好三人衆と」
まずはその三人だった。
「そして松永久秀じゃったな」
「双方に分かれて対立しています」
「おそらくこのままでは間も無くです」
「双方は衝突します」
「その三好につくのか」
そのことについてだ。龍興はさらに話す。
「それとも松永か」
「松永は危険です」
「あの男、全く信用できません」
「何があろうともあの男のところには行くべきではありません」
「決して」
これが家臣達の言葉だった。どうしてもだというのだ。
それを受けてだ。龍興も言うのだった。
「そうじゃな。絶対にじゃな」
「はい、松永だけはです」
「行くべきではありませぬ」
「では三好じゃ」
そこまで聞いてだ。龍興はまた話した。
「あの家にしようぞ」
「三好ですか。やはり」
「三人衆のところに向かわれますか」
「そうしようぞ。ではじゃ」
ここまで話してだった。龍興は決意したのだった。
家臣達にだ。あらためてこう告げた。
「摂津に向かおうぞ」
三人衆の拠点の一つだ。それに対して松永の拠点は大和にある。
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