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久遠の神話

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第二十四話 七人目の影その十五


「そこまで出鱈目ですと」
「出鱈目なあ。自分が出鱈目って気付かないからな」
「何言われても聞かなくて。ですね」
「で、碌でもない奴をいい人って思い込んでな」
「バイト先でもそんなことしたんですか」
「本当の馬鹿はことの善悪もわからないし屑も屑ってわからないんだよ」
 かなり忌々しげにだ。中田は言った。
「で、俺もかなり言ったんだよ」
「それでも聞かなかったんですか」
「自分は手駒じゃない、動くのは自分だって言ってな」
 つまりそれはどういう意味かとだ。中田はさらに言った。
「御前の言葉は聞き入れないって言われたよ」
「何か厨二病っていうんですか?」
「だろうな。ネットでよくそう言うよな」
「ですね。そんな感じだったんですね」
「で、今そいつがどうしてるのかは俺も知らないんだよ」
 その壬本という男がどうしているかはというのだ。
「まあ二度と会いたくないけれどな」
「絶対にですね」
「ああ、絶対にな」
 まさにそうだというのだ。何があっても会いたくないというのだ。
「酷いにも程があったからな」
「そのバイト先の女の人は」
「店長さんが責任持って今も守ってくれてるらしいな」
「そうですか」
「チンピラ連中は本当に二度と何も出来ないようにされたらしいからな」
「暴力ですか?」
「暴力っていったら暴力か?」
 樹里の今の言葉をだ。中田は否定しなかった。
「まあそれでもな。暴力でもな」
「この場合はですか」
「制裁になるか?少なくとも警察にも言えなかったからな」
「学校の先生と付き合ってることがばれるからですね」
「ああ、そうなんだよ」
 そうした事情があるからだというのだ。それでだというのだ。
「だから余計にな。そいつは店長の怒り買ったんだよ」
「普通そんなこと知っても言わないですよね」
「しかもゴロツキ共になんかな」
「それを平然としたからこそ」
「ああ、破滅したんだよ」
 中田はさらに忌々しげな口調になっていた。その表情もだ。
 そしてだ。こう言うのだった。
「とにかく何もわからないし何も勉強しないし何も聞かない奴だった」
「ううん、聞けば聞く程」
「とんでもない人ですね」
「まあそいつも剣士になってるかもな」
 自分達の話に当てはめてもだ。中田は話した。
「その可能性もあるぜ」
「えっ、そんな人が剣士になってたら」
 その若しもの話を聞いてだ。樹里は瞬時に顔を顰めさせてだ。こう言った。
「大変ですよ。何するかわからないですよ」
「自分の為ならどんなことでも正当化できる奴だからな」
「ですよね。他人を殺すことも」
「平気でやるだろうな」
「そんな人が。本当に剣士になってたら」
「安心してくれ。その場合は俺がいる」
「中田さんがですか」
「ああ。引導を渡してやる」
 そうするというのだ。彼自身がだ。
「絶対にな。ただな」
「ただ、ですか」
「上城君はそいつに会ったら困るな」
「僕は、ですね」
「ああ。逃げるのも嫌だろ」
「はい」
 その通りだとだ。上城は苦い顔で答えた。
「剣道をしているせいか無意識に」
「剣道は敵に背を向けないからな」
「ですから」
「だよな。俺だって逃げるのは嫌いさ」
 彼と同じく剣道をしているからだ。そう考えるのだった。 
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