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戦国異伝

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第六十一話 稲葉山入城その八


「だからこそここにおるのじゃ」
「そうですね。だからこそ」
「さて、これからじゃが」
 どうするかとだ。信長は話を変えてきた。
「わしはこの城に住むぞ」
「稲葉山にですか」
「ここを居城とする」
 そうするというのである。
「清洲から移る」
「まさか。尾張を出られるのですか」
「そうする。美濃は天下の要所じゃ」
 だからだというのである。そうしてだ。
 その他の理由としてだ。信長はこうも言った。
「それに都に近い」
「都に」
「ここから都まではすぐじゃ」
 その山頂からだ。都の方を見ての言葉だった。
「近江を抜ければな」
「ではすぐにでもですか」
「いや、じきに時が来る」
 少なくとも今上洛はしないというのだ。
「その時を待つ」
「公方様に呼ばれたその時にですか」
「動こうと思っておる」
 実際にそうだというのだ。
「それまでは政を行う。それに」
「それに?」
「そなたともな」
 微笑みだ。また帰蝶の整った顔を見てだ。
「暫く共にいなければな」
「私ともですか」
「折角美濃に戻ったのじゃ」
 ここでもまた美濃だと話す。
「それならばこの国を少し見て回りたい」
「それでしたら」
 その話になるとだ。すぐにだった。
 帰蝶は明るい笑顔になりだ。こう夫に話した。
「案内させてもらいます」
「頼めるか」
「お任せ下さい」
 明るい声での返答だった。
「私も美濃で生まれ育ちました。それならです」
「よく知っておるか」
「時折城の外に出ておりました」
「ほほう、わしと同じじゃな」
「馬に乗り」
 ここも同じだった。信長と。
「そうしておりましたので」
「だからよく知っておるか」
「美濃のことでしたら」
「それならば頼む」
 二人は山から下りるとすぐに馬に乗り美濃を駆け回った。そうしてだ。二人である場所に赴いたのだった。そこは何処かというと。
 墓だった。その前に来て二人で手を合わせてからだ。まずは信長が言った。
「約束は果たしましたぞ」
「戻って参りました」
 帰蝶もだ。微笑んで言うのだった。その小さな墓に対して。
「この美濃に。父上の国に」
「美濃、確かに譲り受け致した」
 信長も普段のざっくばらんな様子はない。畏まっている。
 そしてその畏まった態度でだ。彼は言うのである。
「そして帰蝶もまた」
「殿・・・・・・」
「うむ。しかしじゃ」
「それでもですね」
「これで終わりではない」
 こうも言うのだった。
「美濃を手に入れこれからもじゃ」
「天下を手に入れられる為にも」
「そして天下を泰平にする」
 その為の天下平定だった。信長にとっては。
「誰もが笑って平和に暮らせる天下にするのじゃ」
「そうですね。殿はその為に戦をされていますね」
「何の為の天下か」
 信長が言うのはこのことだった。 
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