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戦国異伝

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第六十一話 稲葉山入城その三


「よいな!」
「!?何だ一体」
「よいなとは一体」
「どういうことじゃ」
 斉藤の兵達は浮き足立った状況で彼にそう言われてだ。まずは戸惑いを覚えたのだった。
 そうしてだ。いぶかしみながら言うのだった。
「我等によいかとは」
「何が言いたいのじゃ」
「織田信長といえば変わり者じゃが」
「何を考えておる、今度は」
「どうしたいのじゃ」
「御主等はこのままでよいか!」
 こうだ。信長はまた言ってきたのである。
「そのまま暗君に仕えてもよいのか!」
「龍興殿か」
「あの方にか」
「このままあ奴に仕えておってもよいことはない」
 今度は落ち着いた調子で諭す様にして言う信長だった。
「一国の主の器ではない。たかが知れておる」
「そうだよな。どうも道三様や義龍様と比べるとな」
「どうにも駄目じゃ」
「何もかもが足りん」
「あれではやがて滅びる」
「それは今じゃな」
 彼等はここで自分達の前を見る。織田の大軍は依然としてそこにいる。一触しただけで消し飛ばされる様な、そうした威圧感がそこにはあった。
 その織田軍と戦をすればどうなるか。考えるまでもなかった。
「こちらは一万、あちらは四万」
「しかも見よ、あの鉄砲の数」
 見れば鉄砲もだ。斉藤の持っている数なぞお遊戯に見える程だった。そして他には。
「槍も異様に長く弓も多いぞ」
「しかも織田の名だたる将が揃っておる」
「如何に信長があれでもじゃ」
「これだけの条件が揃っておればな」
「それにどうも織田信長はじゃ」 
 彼自身のことについてもだ。話される。
「うつけではない様じゃしな」
「うむ、尾張を手中に収め今川を退けてじゃからな」
「そして瞬く間に三河の徳川と同盟し伊勢まで飲み込んだ」
「そういうのを見ればどうもな」
「あの男愚かではないか」
「どうやら」
 その信長も見ての話である。
「その男が今こうしてわし等に言ってきておる」
「では何を言う」
「何を言いたいのじゃ」
 彼等は皆一様に首を傾げさせていた。誰も信長がこれから何をするのかわからない。斉藤の軍ではだ。
 それは織田家の殆どの者も同じであった。
 主の言葉にだ。誰もが驚きを隠せない。困惑していた。
 その困惑のうえでだ。信長を見て言うのだった。
「殿は今度は一体」
「何を御考えなのじゃ」
「また突拍子もないことのようじゃが」
「一体」
「まあすぐにわかる」
 その中で坂井だけは落ち着いて言うのだった。
「だからここは見ておくべきじゃ」
「殿の突拍子もないことはいつもですが」
「それならですか」
「安心して見てそのうえで」
「成り行きを確めればいいですか」
「そういうことじゃ」
 こう言ってだった。坂井だけは落ち着いたままであった。
 そして信長はだ。こう言うのだった。
「聞け!御主等はそのままでよいのか!」
「!?我等にか」
「我等に言うのか」
 斉藤の者達がここで気付いた。彼等に言っていることをだ。 
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