久遠の神話
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第二十四話 七人目の影その七
「善良な人を陥れその座に就き腐敗と堕落を極めた法皇もです」
「そうした法皇が多かった様ですね」
「その中でもボニファティウス八世は最悪の法皇でした」
ただの権力主義者でありしかも贅を極め謀略を駆使していた。何しろ神の存在さえ信じておらずキリストを罵っていたのだ。こんな法皇もいたのだ。
「ですがその彼はフランス王と争いです」
「あっ、それで確か」
「そうです。捕らえられ屈辱を味わい憤死したのです」
「アナーニ事件ですね」
その法皇とフランス王フィリップ四世の争いだ。フランス王は兵を送り法皇を捕らえ武力で黙らせたのだ。樹里はこの事件のことは教科書で知っているのだ。
「あの事件ですか」
「そうです。法皇を捕らえたという事実だけではですね」
「フランス王が悪いと思えますよね」
「ですがその法皇はです」
「そんなとんでもない悪人だったのですね」
「因果応報だったのです」
悪の報いを受けてだ。捕らえられ憤死する末路を迎えたというのだ。
「そうなったのです」
「そうだったんですか」
「そしてそのフランス王もテンプル騎士団を陥れ」
その富を狙ってだ。彼等を異端に仕立て上げ拷問にかけ処刑していってだ。その利権を狙ったのだ。フィリップ四世は狡猾な王だったのだ。
だがその狡猾な王もだ。どうなったかというのだ。
「富を得ようとしましたが」
「そこで、なんですか」
「怪死しました」
「怪死、ですか」
「そうです。騎士団の幹部の呪詛の言葉を受けたせいでしょうか」
詳しい根拠はわからない。だがそれでもだというのだ。
「フランス王は突如怪死しました」
「じゃあそれもですか」
「因果応報です」
それもまただというのだ。
「そうなったのです」
「ではその因果によって」
「はい、悪は全てそうなる運命にあるのです」
こう話してだ。それからだった。
聡美は上城にだ。また言ったのだった。
「ですから。このことはです」
「僕が思うことじゃないですか」
「若し因果で罰せられなくとも神々が罰します」
絶対の口調でだ。聡美は言い切った。
「神の雷や矢を受けて」
「だったらいいんですけれど」
「上城君が問題とされることはです」
「そうした人に倒されないことですか」
「はい、本当にそのことは注意されて下さい」
くれぐれもという口調になっていた。聡美のその言葉は。
「そのことをお願いします」
「だから強くなってですか」
「今よりもです。若し退くことになってもです」
逃げることも嫌っている上城にだ。あえて言ったのである。
「ですがそれでもです」
「それでもですか」
「ある程度の力は必要ですから」
「戦うにしても逃げるにしても」
「そして。戦わないにしてもです」
「どうするにしてもですか」
「強い力は必要です」
これがだ。聡美が上城に告げる結論だった。
「何をされるにしてもです」
「力はですか」
「そうです。力自体はいいものです」
「問題になるのはですね」
「そこに心があるかどうかです」
問題はそこだった。力の有無ではなくだ。
そこにそれがあるかどうか、聡美は上城にこれまで以上に強く述べた。
「ですから。強くなられて」
「そしてですね」
「御心もです」
「それも強くなる」
「今の上城君はそうされて下さい」
彼のその目を見てだ。聡美は告げた。
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