戦国異伝
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第六十話 四人衆帰順その十四
「よくないのう」
「よくありませんか」
「人に考えを読まれては意味がない」
だからだというのである。
「試しにわしは斉藤龍興の考えを読んでおるな」
「はい、確かに」
「それによって策を立てておるが」
だが、だ。それがだというのだ。
「わしが逆にそうされてはじゃ」
「危ういですな」
「そういうことじゃ。例えあの者達でもじゃ」
「御考えを読まれる訳にはいきませぬか」
「左様。とはいっても権六も牛助も鋭い」
そういったものがなければだ。信長の家臣足り得ない。そもそもだ。
「あ奴等に読まれぬのもじゃ」
「それも将の務めですな」
「そういうことになる」
こう話すのだった。そのうえでだった。
信長は墨俣に向かいだ。斉藤に止めを刺そうとしていた。その戦の場となる美濃の外れにおいてだ。竹中はこう供の者達に話した。
「時が来た」
「時が?」
「といいますとやはり」
「殿は織田殿に仕えられますか」
「そうされますか」
「それを決める時が来た」
これが彼の言うことだった。
「いよいよじゃ」
「ではやはり」
「この戦の後で」
「織田殿の御前に赴かれますか」
「そうしよう。墨俣に城を築かれた」
竹中もだ。このことについて言及する。
「それを見て四人衆の方々は皆織田に赴かれた」
「国人や家臣の方々もですな」
「それこそ次々に」
「ここで戦になる」
そうなることもだ。彼は既に読んでいた。
「そして織田殿は勝たれる」
「ではいよいよですか」
「美濃は完全に織田殿の手中のものとなる」
「そうなるというのですか」
「その通りじゃ。とりわけじゃ」
竹中はさらに述べる。
「このことは天下に大きく影響する」
「豊かでしかも要地にあるこの美濃を押さえると」
「さらにですか」
「そうじゃ。そうなればじゃ」
竹中の言葉が続く。
「織田殿は天下を手に入れられることも夢ではなくなる」
「何と、天下もですか」
「この乱れた天下を織田殿が治められる」
「そうなるというのですか」
「そうじゃ。それが今決まる」
竹中はさらに話す。
「これからな」
「ううむ、それではです」
「殿はまことにいよいよですな」
「織田殿に仕えられるか他家か」
「それとも隠遁したままか」
「そしてその中からですか」
「織田殿に仕える」
竹中は自らこう言い切ってみせた。
「その様にな」
「はい、それでは我等もです」
「その殿と共にです」
「織田殿にお仕えしましょう」
「頼むぞ」
竹中はその供の者達に述べる。
「大変なのはこれからだがな」
「これからですか」
「織田殿に仕官してそれで終わりではない」
「むしろこれからですか」
「そうじゃ。まさにじゃ」
そうだという竹中だった。
「だからじゃ。よいな」
「覚悟は必要ですか」
「世に出られても」
「隠棲しても何にもならぬ」
それはもうわかっていたのだ。竹中自身もだ。
しかしそれでもだとだ。世に出ればだ。
「色々なことがある。それは避けられぬ」
「逃げてもいられませんか」
「世に出るなら」
「そういうことじゃ。しかし時は来た」
ならばだというのだった。
「わしはそれにあえて向かおう」
「織田家において」
「いざ、ですな」
「まさにいざ、じゃな」
彼等の言葉もだ。受けてだった。
「わしでも心が弾むのもまた事実じゃ」
「御心がですか」
「そうなっておられますか」
「自然にな。そうなっておる」
言いながら微笑みも見せてであった。彼もまた立ち上がった。
美濃で何もかもが大きく動こうとしていた。そしてそれはそのままだ。天下にもつながろうとしていたのである。だがそれを知る者は今は誰も知らない。
第六十話 完
2011・10・2
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