チートだと思ったら・・・・・・
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四話
「宮内 健二、我が主エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル様がお呼びだ。付いてきてもらおう」
大停電の日、この日の戦いに介入するかどうか結論がでないまま夜になった。そして、俺は思ってもみなかった人物、”大河内 アキラ”の訪問に驚愕し、また、彼女の言葉に従うしかなかった。
「ようやく来たか」
女子寮にある大浴場、俺はそこまでアキラに連れてこられた。目の前にはエヴァンジェリンの他に茶々丸、操られている3-Aメンバー。そして、原作ではいなかったはずのチャチャゼロの姿があった。
「一体、何のようだ」
喉から絞り出す様に声を出す。エヴァンジェリンと茶々丸はまだしも、チャチャゼロからは背筋が凍りついてしまいそうな雰囲気が感じ取れる。これがこれが”殺気”なのかと、漠然とそう思った。
「何、少し貴様を測ってみたくてな!」
「ケケケ!」
自信の身の丈を超えるほどの大きなナイフを振りかぶったチャチャゼロが突っ込んでくる。その様子は殺戮人形という呼称がピッタリと言えるほどだ。
「投影、開始!」
大きな布を相手を覆うようにして投影する。この程度の目くらましが通用するなど到底思えないが、一瞬でも間が出来ればいい。その間に俺は……
「同調、開始!」
戦闘準備を整える! 身体に強化を施し、同時に防具を編みこむ。今の俺は、外見だけならエミヤと瓜二つだ。布を切り裂き、スピードを更に上げて迫るチャチャゼロを……正面から迎え撃つ!
「投影、開始!!」
両の手に現れる重みをしっかりと握りしめ、俺は立ち向かった。
「ドウシタ? ソノ程度カヨ」
「舐め、るな!」
互いが両手に持つ武器を縦横無尽に走らせ、ぶつけ合う。戦いは、終始チャチャゼロ優勢で事が進んでいた。
「重っ!?」
振り下ろしの一撃を干将で打ち払う。腕に走る衝撃が、それの重さを物語っている。一体、その小さな身体のどこにそんな力があるのかと、小一時間ほど問い詰めたくなった。
「隙アリダゼ!」
「!?」
振り回せばポロリと取れてしまいそうな細い足に額を蹴飛ばされる。風呂場故に下は濡れており、地面の上をバウンドした後もそう簡単には止まらず滑って行く。戦闘を開始してから三分程度だと言うのに、埋めようのない力の差を感じていた。
「御主人、何デオレガアンナノノ相手シナクチャナンネーンダ?」
「気にいらんか?」
「動ケネーヨリハマシダケド、アノ程度ジャアナ」
健二はチャチャゼロにとってあの程度以下のレベルでしかない。それは茶々丸に圧倒されたと知っているため、然程思うことはない。だが、それでも奴はまだ倒れていない。
「ならば、さっさと終わらせて来い」
「ケケケ、リョーカイダ御主人」
――さぁ、どこまであがけるか……見せてみろ。
「――投影、開始」
夫婦剣を破棄し、次なる武器を投影する。接近戦で勝てないことなど分かっていた。茶々丸に勝てないのにチャチャゼロに勝てるはずがないのだ。ならば、俺が選択すべきはこれしかない。何故か追撃をしかけてこないチャチャゼロを、俺はしかと見据えた。
「弓、か……」
「はい、あの時と同じものです」
思い出されるは以前の会合。その時に放たれた強力無比な必殺の矢だ。今ここで取り出すということは、それが奴の真骨頂である証と言えよう。
「チャチャゼロ、存外に楽しくなるやもしれんぞ」
「楽シクナルナラ大歓迎ダゼ」
奴が弓に矢をつがえると同時に、チャチャゼロが飛び出した。
「………………」
気を静め、自己を無くし、矢が目標を射抜くことだけをイメージする。エミヤの弓術、それを得た俺になら、出来るはずだ!
「――見えた!!」
矢を放つ。それを察知していたのか、チャチャゼロは迎撃のために獲物を既に振り上げている。だが、そんなことは……
「お見通しだ!」
「何ダト!?」
銀閃となって飛来した矢はチャチャゼロが振り上げた獲物の柄をピンポイントでとらえ、遥か遠くに弾き飛ばした。だが、まだ終わらない。敵にはまだ武器が残っている。俺は一息の間に四の矢を放った。
「オオオォォオオ!!」
チャチャゼロは侮っていた。確かに、宮内 健二と言う男の弓が脅威たりうると聞いていた。だが、銃弾入り乱れる戦場を渡り歩いたチャチャゼロは、所詮は弓と言う先入観を無意識の内に持っていた。それに、健二の実力が大したことなかったのが拍車をかけたのだ。
だが、今現在チャチャゼロはその大したことないと判断した男に武器の一つを奪われている。油断、確かにそれもあっただろう。しかし、今こうして必死になって矢を避けているのは健二の矢がじぶんを破壊たらしめると認めたからだ。故に……
「行クゼ!」
チャチャゼロは健二を、己の敵として認めた。
「づぅ……」
右の指に痛みが走る。エミヤの弓術は一息の間に十以上の矢を放つことも出来る。だが、ここでまた問題となるのが俺自身の身体だ。得たのは魔術と弓術だと知って程ない内にどの程度なら出来るかは散々試した。弓の速射は一息に四矢まで。それが俺の限界だった。
チャチャゼロは歴戦の猛者、今では放つ矢の殆どが躱され、のこりは側面を叩かれることで反らされている。その必死な様子から相手も余裕があるわけではないと分かるが、この数では今のチャチャゼロ打倒することは出来ないようだ。ならば、多少の無理は仕方ない。
「どう、だ!!」
一際激しく痛みを訴えてくる指を無視し、限界を超えた五の矢を一息で放つ。同時に指から少々激しい出血が起こったが、そんなものは気にしていられない。チャチャゼロは矢が一つ増えた程度なら耐えるだろう。
「――投影、開始」
俺はこの戦いを終わらせる最後の一矢を、この手に投影した。
「――投影、開始」
弓に番えた状態で顕現したのは柄が極端にに短い細身の長剣だ。元の形は代行者の武装たる黒鍵。エミヤの固有結界に登録されていた、剣を矢へと改造したものの中の一つだった。
「剣? 何ダソリャ」
五つの矢を見事にやり過ごしたチャチャゼロが漏らす。弓で剣を放つ、普通に考えれば馬鹿げていると言うほかない。だが、この男は自分に恐怖を抱かせるほどの弓の使い手。それがこの土壇場で出来ないことをするはずがない、と。チャチャゼロは警戒と興奮を最大限にまで高めた。
「い、っけえぇええ!!」
剣を放つ。これで最後だと言わんばかりに烈火の気合を込めて放った。視界に映るは迎撃に走るチャチャゼロの姿。先の矢よりも速いというのに、よくも反応できるものだ。だが、その選択は間違いだったな。
「ウ、ラアァア!!」
飛来する剣と振われるナイフが真っ向から衝突する。二つの獲物は互いを喰らい、飲み込み、破壊せんとぶつかり合う。
「グ、ウオォ……」
正直言って、驚愕ものだった。いくら万全のエヴァンジェリンから魔力を供給されているとはいえ、ここまで拮抗するとは……だが、それもここまで。力が拮抗しているのなら、何が勝負を決するのか……答えは簡単。
――ピシピシ
ぶつかり合う獲物の”強度”にほかならない。チャチャゼロの扱う業物のナイフと俺の放った”強化”済みの改造黒鍵なら、こちらが上をいく。
「負ケル、カヨ!!」
そんなチャチャゼロの叫びも届かず、ナイフは粉々に砕け散った。
(良し、これでまだ勝機がある)
チャチャゼロの武器は奪った。本来なら腕の一本でも一緒に吹き飛ばしてやろうとも思ったのだが、そこまでは上手くいかなかったようだ。ナイフが砕ける寸前しっかりと射線から身をどかしていた。だが、基本武器使いであるチャチャゼロの戦闘力は落ちたはずだ。身体強化もまだ持つ。
「勝負はこれ、か……ら……」
突然、地面が目の前にやってきた。俺は理解が追いつかぬまま、意識を手放した。
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