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久遠の神話

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第一話 水の少年その十一


 そこでだ。どうかというのだ。
「そこはどうですか?」
「ああ、どっちも行くぜ」
「やっぱりそうなんですか」
「まあ。機会があればな」
 一度飲むというのだ。
「そうしような」
「ええ、機会があれば」
「ただ。今はな」
 今はどうするかというと。それは。
「一人で飲みたい気分だからな」
「それでなんですね」
「ああ、これでお別れだよ」
 そうだといってだ。そうして。
 中田は上城に背を向けてだ。最後に言った。
「じゃあな」
「はい、さようなら」
「またな」
 こう挨拶をしてだ。それでだった。
 彼等は別れた。中田は夜の道の中に消え上城も自分の家に戻った。家に帰るとだ。すぐにだった。
 彼の母親、小柄でまだ若さの残る顔立ちの彼女がだ。彼にこう言ってきたのだ。
「あれ、今日は遅かったわね」
「ちょっと人とお話してたんだ」
「人って?」
「大学の人と」
 中田のことをだ。ありのまま話すのだった。
「少しね」
「それで遅かったの」
「うん、僕と一緒で剣道をしてる人で」
 母にこのことも話す。話をしながら制服姿でテーブルに座る。だがそこにはまだ料理は来ていない。母が冷蔵庫から出そうとしているところだった。
 それを見ながらだ。彼は話すのだった。
「凄く強い人だったんだ」
「そんなに?」
「うん、もう鬼みたいなね」
 そこまでだと。母には鬼だと話す。
「滅茶苦茶強いんだ」
「鬼なの」
「そう、鬼」
 こう話すのである。
「とんでもない位にね」
「じゃああんたよりもね」
「僕なんか全然だよ」
「比べ物にならないの」
「そう、あんなに強い人いないかもね」
 ここまで言うのだった。
「いや、本当に」
「じゃああんたはね」
「僕は?」
「その人みたいになりたいのね」
 母は微笑んで我が子にこう尋ねた。
「そう思ってるのね」
「そうだね。言われてみればね」
「そうよね。だから言うのよね」
「あんな強い人になれるかな」
「なれるでしょ。努力すれば」
「努力すればだね」
「そう、なれるわよ」
 また我が子に言う母だった。
「けれどあんたも」
「僕も?」
「二段だし。段位の話じゃないけれど」
「強いっていうんだね」
「高校生では強い方でしょ」
 剣道部ではレギュラーだ。八条学園高等部の剣道部は県内有数の強豪でもある。従って彼の強さもかなりのものなのである。
 だが、だ。上城はこう母に言うのであった。
「僕なんかとてもだよ」
「そんなに凄いの」
「僕は高校生でその人は大学生で」
 年齢のことも話すのだった。学生の頃はその強さに年齢が大きく関係する。熟練だけでなく体格や運動能力の違いが出てである。 
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